足を出しながら振りかぶる?

(早素振りのできない子供達 2000/08/29)

 『剣道指導者研究室』掲示板に質問が入ってしまいまして、急遽これを先に仕上げなくてはならない必要性がでてきました。よそのサイトでも、基本指導についての書き込みをはじめる必要に迫られています。そこでまず、私の基本の原点になっている「足の運用」について書いておきたいと思います。


 最近の剣道の技術指導書を読んでいると、素振りのところで必ずといっていいほど、「振りかぶりながら右足を前に進め、振りおろしながら左足を引きつける」と書かれています。実は、私はこれが気になってしかたがありません。と言うのも、私が子どもの頃教わった基本も、大学の卒業論文(『現代剣道における足さばきの指導法』)を書くにあたって故渡辺敏雄先生に確認したときも、そういうふうには教えられなかったからです。そして、私自身も、今現在、自分が教わってきたやり方を自身の基本とすると同時に生徒達にも指導実践しているからです。

 私の基本の原点にもなっている「足の運用」ですが、その骨子は、「振りかぶったときは足を前に出さない」です。

 もう少し細かく説明すると(『剣道指導者研究室』からの転載&加筆ですが)、「振りかぶるときには足を出さず、それが頂点に達したところから左足の蹴りだしにより右足を前に進め、振り下ろしに転じた竹刀が打突部位に当たるにやや遅れて踏み込み、直後に右足の大腿直筋の緊張によって左足を引きつける」ということになります。

 足の出し方ですが、意識としては右膝が先行するような感じです。右足も左足も足底の指の付け根でがっちりと床をつかむようにします。重心をグッと落とし、意識の上では足を床にめり込ませるように働かせます(ダウンバランス)。左足の蹴り出しによって、右足が前に押し出される感覚です。この時、足底(とくにつま先部分)が床から離れないように意識します。

 床をとらえ重心が右足に移動すると同時に、右足の大腿直筋を使って左足を引っ張り込みます。

 

 近年、審判で上は大学生の大会から、下は小学生の大会まで目にする機会があるのですが、跳躍早素振り(以下、早素振り)がおかしい学生・生徒・児童を多数見かけました。今年度インターハイで上位に上がった学校の生徒の早素振りも妙でした。

 どのようにおかしいかというと、両足が同時に床から離れ、同時に床に着くのです(両足同時ジャンプ)。

 本来の早素振りは、
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  1.振り下ろしの動作の開始と同時に左足が床を蹴って右足が前に進む

  2.右足が着地したときに面を打ち次いで左足が基本の足型(構えたときの足
    型)に引きつけられ

  3.振り上げながら、右足が床を蹴り左足を押し下げ

  4.左足・右足の順で着地し、振りかぶりの動作が完了する
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という動きの繰り返しです。

 足の動きは、前進の時は「右足・左足」と着地し、後退の時は「左足・右足」の順で着地するのであって、けっして「両足同時ジャンプ」ではないはずです。


 それではどうして「両足同時ジャンプ」になってしまったのでしょう? その理由が「振りかぶりながら足を出す」という振り方のためではないかというのが私の仮説なんです。この振り方だと、右足の着地が早くなりすぎて早素振りが理論的にできないことになります。そこで早素振りの類似運動として、両足同時ジャンプによる跳躍素振りが生まれたものと考察したわけです。

 早素振りは、「左足蹴り出しの基礎」とか「左足引きつけの感覚」とか言われてきましたが、この技術が崩れようとしているわけです。


 また、運動力学的に考えても、「振りかぶりながら足を出す」やり方は妙です。腕の振りかぶりは、後ろ上方への力を身体に与えています。これに逆らいながら足と身体を前に進めることになるのです。

 さらに、振りかぶったときに右足が宙に浮いてしまっていますから、安定が悪いですね。バランスよく床をつかんで遠くへ跳ぶことが不可能になります。

 その点、「振りかぶりの時、両足を床に接している」やり方は、振りかぶりのときのバランスがよく、振り下ろしの方向と足(身体)が進む方向を完全に一致させることができるので、正しい姿勢で遠くへ踏み込むことが可能です。


 それでは、なぜ、「振りかぶりながら足を出す」という技法が生まれ主流たらんとしているのでしょうか? それは、小さく早く打つ技術、つまり、剣道の競技化が原因です。できるだけ手元が上がらない方が、さばかれたり、出小手や抜き胴、応じ返し胴を打たれにくいという利点があるからです。「振りかぶりながら足を出す」技法は、このあたりから来ているものと推察できます。

 私は故渡辺敏雄先生から小野派一刀流の手ほどきを受けましたが、その極意の「切り落とし」は、相手の後から発し、相手の切りかかる太刀を鎬ではじき飛ばし一拍子で切りつけるという豪胆な技です。この「切り落とし」をうまく使うためには、「振りかぶりながら足を出し」たのではまったく力が入らないのです。このあたりをどう考えたらいいのでしょうか?


 もちろん、剣道の技術は日進月歩していると考えていいでしょう。最近読んだとある本で「古い先生ほど、振りかぶったとき足は出さない、と教えられる」との一文を目にしました。ひょっとしたら、私の唱えている方法は時代遅れなのかもしれません。しかし、もう少しこの理論を研究・実践していきたいと考えています。


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