反則が試合を縛る?!

(2000/06/23)

 私は仲間の関係で、高校生の試合を中心に中体連や学連の試合など、若い人の試合を見る機会が多く、その中で最近とくに強く感じていることを書いてみたいと思います。

 それは反則のことです。この春の高体連の関東大会は、事前の監督会議でも「不正なつばぜり合いの反則を厳密にとる」という話がありました。ここの『不正なつばぜり合い』とは、鍔と鍔が接しておらず、拳と拳、拳と刃部が接しているようなもののことで、従来の「裏考査にして技を出させないようにする」とか「相手の肩に竹刀をかけて打たれないようにする」という『攻撃妨害』というニュアンスとは違った視点での適用でした。

 これの適用について各試合場でばらつきが見られたということは、関東大会の記録&簡単な観戦記に書きましたので、ここでは違う話をします。


 反則2回で相手に1本を与えるというのは平成7年に施行された試合審判規則の第3章禁止行為の第2節罰則、第20条に書かれている規則です。この種の反則行為は、「場外」「抱え込み」「竹刀の刃部を握る」「相手の竹刀を抱える」「相手の肩に故意に竹刀をかける」「倒れたときの過剰防御」「故意に試合時間を空費する」「不当なつばぜり合い、及び打突」が条文にあるもので、別表の『審判員の宣告と旗の表示』に「足掛け・足払い」「不当な押し出し・突き出し」「竹刀落とし」とあります。この内、『剣道試合・審査規則の改正と運用上の要点』第29条で定められている「明らかな反則については、旗の表示」のみで合議を必要としないで反則を適用しているものが「場外」と「竹刀落とし」です。高校生の試合でよく適用される反則は、このふたつの他、つばぜり合いにおける「試合時間の空費行為」です。

 高校生の試合を見ておりますと、反則1回を犯している選手は、男子女子に関わらずほとんどの場合、とたんに試合場の使い方が狭くなります。試合場の隅に行くことによって、相手からラインのプレッシャーをかけられることを嫌うようになるためです。
 上段の選手の場合、男子はそうでもないのですが、女子は片手技の打突が減り諸手技を多用するようになります。日頃から稽古していますから、そう簡単には竹刀は落とさないはずなのですが、ヘンに引っ掛かったりして落とすことを恐れるためでしょう。

 また、審判がつばぜり合いからの技を積極的に出させようとするあまり、両者に「試合時間の空費行為」の反則を適用すると、両者ともつばぜり合いから技をかける(または、かけようとはする)ものの、ラインを気にして思い切って引くことが出来ず、中途半端にさがってはつばぜり合い、さがってはつばぜり合いという繰り返しになる傾向が強いようです。結果、有効打突を狙うことよりもつばぜり合いや場外を気にする試合展開になってしまっているのです。

 全剣連は「有効打突をもって勝敗を決する」ということを望んでいながら、その実情は、「反則での一本を気にして有効打突を思いっきり争えない」試合になってしまっているのです。また選手も、相手選手が1回反則を犯していると、ライン際にさがったときに反則での一本を狙いにいくような場面も見られます(有効打突を狙うのではないライン際の突きなど)。チームによっては、相手選手が反則を犯すと、自チームが一本取ったかのごとく喜ぶという状況も数多く目にします。

 むろん、「反則を犯さないように試合をすればいい」という意見もおありでしょうが、うっかり竹刀を落としてしまうとか、うっかり場外に踏み出してしまうといったことは、高校生や大学生など運動量の多い年代では比較的容易に起こるり得ることなのです。その結果、反則を意識しながら戦わなければならないというのは競技としての興味を削ぐことになりはしないでしょうか?


 私が提案したいことは、「上記の反則行為は3回で相手に一本を与える」ということです。資料が手元にないので定かではありませんが、たしか、私が大学生の途中くらいまでは、こういう規則だったと記憶しています。
 自分の選手の頃のことを振り返ってみると、1回反則をしてしまうと「次に反則すると危ないから気をつけよう」ということは考えましたが、それが試合内容に影響するようなことはほとんどありませんでした。また、相手が1回反則した程度では「反則での1本を狙う」ようなこともなく、普通に試合をしていました。
 反則3回で一本だからといって、わざと反則するような「反則を悪用する」行為もとくに見られませんでしたし自分でもしたことはありません。当時は、そのような行為が見られると審判がすぐに「わかれ」をかけましたので「つばぜり合いで逃げる」といった行為自体なかったように思います。

 ただ、こう変更した場合は「試合時間の空費行為」に関する反則は、つばぜり合いに限らず厳しく適用していく必要があるとは思います。
 さらに、現在では一本を先行している選手が(つばぜり合い以外で)明らかに勝負を避けるように技を出さず逃げ回っていても、「試合時間の空費行為」の反則を適用することがほとんどありません。正々堂々勝負させるには、こうした行為こそ厳しく反則をとるべきで、「拳と拳、拳と刃部」などという枝葉の部分の反則よりも大切なのではないでしょうか?

 全剣連の試合・審判規則のこの部分の変更が不可能ならば、大学生以下の大会の主催者が自主的に『グランドルール』として採用する方法もあると思います。小中学生の大会などで正規の試合場の大きさが確保できず、「反則を適用しない」という『グランドルール』で試合をさせているのによく出会いますが、これも「反則3回で一本」という『グランドルール』に変えてみたらどうでしょう。「場外反則を適用しないから」といって、どんどん試合場の外に出てしまい、いたずらに試合時間が伸びることを防げるかもしれません。

 反則行為を厳しく適用することによって反則をさせないようにする(毒をもって毒を制する)よりも、反則を悪用させないように大会主催者、審判、あるいは指導者が取り組んでいくことが大切だと思います。まして、反則によって競技に集中できなくなったり、使う技に制限をかけざるを得ないということが起こるのは、競技者に「相手の反則は自分のポイント」と錯覚をおこさせる原因になります。
 反則が剣道という「有効打突を競い合う競技」の本質をゆがめないように、真剣に考えていかなければならないことだと愚考します。


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