剣道人口減少の原因は?(1)

(2000/03/21)

 剣道人口減少の原因は、さまざまなところで論じられておりますので、私ごときが今さら新たに述べるほどのことはありませんが、多くの方のご批判を覚悟の上で、感じていることを書かせていただこうと思います。

 

 私が剣道人口の減少のひとつと考えていることに、「学校開放の台頭による町道場の消失」があります。

 社会体育という考え方が一般的になり、学校の体育館を地域社会に開放するようになったことから、こうした場所を利用して剣道を教えるようになってきたわけです。これら学校開放の「剣友会」は、公共の場所を利用しているために、月謝といっても会を維持して行くのに必要最低限のものしか徴収してはいけないのです。いきおい、個人で経営している町道場とは比較にならないくらいの低料金で剣道を学ぶことができるのです。折しも剣道は「頭の良くなるスポーツ」としてブームでしたが、剣道を知らない親にとっては「町道場」であろうが学校開放の「剣友会」であろうが安く教えてくれる方がいいわけで、学校開放に大勢の子供達が流れていきました。

 しかしこれだけではありません。「町道場」には歴史があり、それぞれの地域の大会でしっかりした実績を持っていました。門弟の増えた「剣友会」は、次に試合に勝つことを最大の目標として子供達を鍛えてきました。そして、それは着実に成果をあげるようになっていったのです。

 

 私も「町道場」の出身ですのでよく知っておりますが、「町道場」というのは大家族のようなものなのです。おじいちゃん先生や曾おじいちゃん先生、お父さん先生やお母さん先生、お兄さん先生やお姉さん先生もいます。これらさまざまな年代の多くの先生に教えていただくことが可能です。また、小学生・中学生・高校生・大学生もいます。男の子も女の子もいます。場合によっては、自分より年下の弟や妹もいます。「町道場」の先生は、門弟が小さいころから成人して後まで長い目で剣道をそして人生を教えようとしてくださいました。

 それに反して、たいがいの「剣友会」の指導者はひとりです。むろん、数名から十数名の指導者を抱える立派な「剣友会」もあるでしょうが、設立の当初からそうであったかどうかは疑問です。「町道場」に負けないような戦績を残すことに躍起になった「剣友会」の多くは、成長していった門弟が帰れるような場所ではありませんでした。さまざまな年代の方が、共に『人格の完成』を目指して真摯に汗を流す町道場は、社会人となり趣味や余暇に汗を流さんとする門弟も暖かく迎え入れる土壌となりえますが、勝つことに重点を置いた指導で選手の育成にのみ力を入れる剣友会では難しかったのです。そうしたところで育った生徒達が、今の親の世代と重なることにも注目したいところです。

 

 最近の剣友会は、また、少し違った方向に進みつつあります。返事・挨拶など基本的な礼儀作法すらきちんと教えきれないところが増えてきているのです。

 少子化に加え、他のスポーツのブーム、中学受験増による進学塾への通塾などの影響による小学生剣道人口の減少です。これにより、軒並みどの剣友会も生徒を減らしました。それと同時に、剣道に入門してくる生徒の質が変化してきたのです。
 全盛期には、元気が良くわんぱくで、運動の得意な活動的な生徒が多く入門してきましたが、近年そういう生徒は他の競技に進む傾向が強いようです。剣道に入門してくる生徒の多くは、親が「少しだらしないので」といった理由で連れてくるようです。そのくせ、子供が「行きたくない」「辛い」と言えばすぐにやめさせてしまう。入会金や月謝が安い剣友会ですから、やめさせる(休ませる)のもそれほど気にならないのかもしれません。
 たしかに、親に殴られたことがないどころか、怒鳴られたことがない、叱られたことがないなんていう子供まで増えている現状では、指導者はやめさせないために子供のご機嫌をとるような指導をせざるを得なくなってきているは理解できないではありませんが、学級崩壊が叫ばれて久しい昨今、剣道まで崩壊させてしまってはどうでしょうか。

 

 誤解のないように申しておきますが、学校開放を利用したすべての剣友会が、ここに述べたようなものでないことは言うまでもありません。私が最近、近隣の町道場や剣友会を巡り歩いたところ、最も指導者の姿勢やその指導内容・組織形態がしっかりしていた所は、ほかならぬ学校開放を利用した剣友会でした。 

 

 単なる競技としてみた場合、剣道ほど楽しみの少ない競技はないでしょう。「自分が先生や先輩から教えていただいたことを、咀嚼してより高めて下の世代に伝えよう」という文化性を教えずして、目先の勝ち負けばかりを追求させてきてしまった多くの「剣友会」の功罪が、今日の剣道人口減少の一因となっていると考える次第です。


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