少年指導について(2)

(指導者としての心構え 2000/09/01)
この一文は、「クラブオブ剣道 & タギリ金属の掲示板」に書き込みしたものを土台にして加筆訂正したものです。

 実は、私が少年指導をしていたころは「子供達に剣道を好きになってもらう」といった視点にかけていたと反省しています。「剣道とは苦しいもの」「剣道とは辛いもの」であり、それを乗り越えた先に「素晴らしいものが見える」という考え方でした。

 「飽食の時代」という言葉がありましたが、高度経済成長を経て、私たちのまわりには物が溢れるようになってきました。戦争の末期を経験してきた親達は「子供にだけは苦労をさせたくない」「物がなくて惨めな思いをさせたくない」と考え、子供達に与えられるだけのものを与えることこそ『愛情』と錯覚してしまったきらいがあります。その結果、心の障害を持つ児童・生徒が激増したことは、いまさらここで語るまでもありません。
 私はそんな時代的背景があったればこそ、「苦の中に楽を見いだす」といった視点で子供達に苦しい稽古を課していたのでした。

 当時の私は、剣道は「剣の道を志す一部のエリートのみが取り組めばいい」と考えておりましたので、剣道に縁することそのものが「選ばれた人」という傲慢な考え方を持っておりました。
 こうした私のやり方は、ある面では成果を修めることもできましたが、私の教え子達が県で優勝以上の成績を残せなかったのは、そんな「狭い」考え方だったせいでしょう(^^;


 子供の頃からの学校不信で教員になることを拒んでいた私は、どうしたわけか(話と長いので割愛しますが)女子校の教員として学校教育の枠の中に組み込まれることになります。そこでの経験が、私に指導者としての新しい観点を植え付けてくれたようです。

 それは「鍛える」から「育てる」への転換ですヽ(^.^)ノ

 さらに、その女子校が共学化され、男子の剣道の授業を担当するようになって、さらにその思いが強くなりました。
 元女子校に入学してくる男子とは、どんな男の子か想像がつきますでしょうか? 全部が全部そうだとは言いませんが、おとなしくて、身体を動かすことが苦手で、活動的な男子の集団の中では浮いてしまうような、また、あるいは中学時代に不登校やいじめられた経験を持つ男子。または、それとは正反対に女の子目当ての男子です。
 彼らを一人前の「社会に適応し活躍できる男」に「育てる」ために、まず『剣道好き』にさせることが急務でした。


 私の経歴はともかく、それらの経験を経て指導者として心がけた(ている)点は、「わかりやすい指導者たれ」「強く優しくたくましい指導者たれ」「率先垂範する指導者たれ」の3点です。

 「わかりやすい」は人間としての明確さです。
 生徒の前では「先生」という自己の価値観を明らかにしてやります。人間としての『絶対値』を表現するのです。それが実際の自分と違うものだとしても、「プロの先生」である自覚を捨てないようにします。つまり極端に言ってしまえば「先生である自分を演じる」っていうことでしょうか。
 どういうことで怒り、どういう点を評価し、何を基準にほめるのか。
 あまりに現実の自分と懸け離れてしまうと、虚を突かれたときにうろたえてしまいますから、現実の自分も教師の自分とイコールが望ましいわけです。
 とくに、大人を批判する鋭い感性を持った中高生と接するとき、また、「大人」というだけで畏敬の念を持つ小学生に接するとき、「わかりやすさ」という要素は非常に大切だと考えています。


 「強さ」「やさしさ」「たくましさ」は、子供達の誰もがあこがれるものではないでしょうか? 置き換えると、『人間的な魅力』っていうことでしょうか。思い遣りをもって子供に接し、「1個の人格」としてていねいに扱うことが肝要です。
 もし、自分の先生が「弱く」「思い遣りがなく」「たくましさのかけらもない」という状態だとすると、考えるまでもなく、子供達がついていくことは不可能でしょう。


 「率先垂範」は、善行の勧めです。
 挨拶などの礼儀はもちろん、ゴミを拾う、公共の場所でのマナー、公衆道徳の尊守など、TPOに応じた立ち居振る舞いなどをきちんとすることです。『剣道日本』10月号に岐阜の田村彰浩先生が書かれている「気品と礼節」の実践です。

 指導者は常に見られています。「こんなところに生徒はいないだろう」と思うような時にかぎって、誰かしら見ているものです。日頃から襟を正して生活することが、とりもなおさず、道場での指導に生きてくるのです。

 早稲田大学において渡辺敏雄先生は、常日ごろから「規則正しい日常生活を送りなさい。誰からも後ろ指をさされることのない生活をしなさい」とおっしゃっておりました。学生であった未熟な私にはその言葉の意味がよくわかりませんでしたが、今になってみるとしみじみと心に響いてまいります。
 先生の『剣理精通』の教えは広範に渡っていて、とても容易に実践することができませんが、この部分も含め、さらに勉強していこうと考えています。


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