基本の指導法(4)

(「面の打ち方三挙動」 2000/11/17)
この一文は、「クラブオブ剣道 & タギリ金属の掲示板」に書き込みしたものを土台にして加筆訂正したものです。

 「上下素振り」で振りかぶりの解説をしたところ、お読みになった方から質問がありましたのでご紹介します。

>肘の関節と角度についてですが、横から見たときの角度だけですか?
>それとも正面からの角度も中段の構えのままと言うことですか?
>私は鏡で見てみたらどうやら振りかぶるときに腕を絞る(肘が内側に折れる)
>様にしていますが、おかしいのでしょうか?教えてください。

 まず、このご質問にお答えしておきましょう。
 これは、前から見ても横からも見ても角度を変えないようにするのです。ご質問をいただきました方のように振りかぶりの時に肘が内側に絞れてしまう欠点を、女子選手に多く見かけます。やはり、上腕筋や僧帽筋、それらを支える背筋郡の力が弱いせいでしょうか。
 こういう振りかぶりですと、直線的な技の場合はそれほど差し支えがないのですが、「摺り上げ技」や「応じ返し技」を使うときには技が窮屈になってしまいます。また、懐が狭くなりますので、打突にダイナミックさがなくスケールの小さい剣道になりやすいですね。
 やはり、構を崩しているので、それだけ無駄が多くなっているはずです。


 さて、いよいよ三挙動です。
 これも私の持論なのですが、「空間打突が手の内を作る」と考えています。打突部位でピシッと竹刀(木刀)を止めるという動作には、両手首の自然な内転動作と両ひじ両わきの締めが必要になってきます。また、押し切りの基本である左右の「押し手」の感覚も空間打突を繰り返すことによってマスターされていきます。

 ところで、みなさんは、竹刀を面の高さで止めたときに「パシッ」という音をさせられますか? 私は音を出すことができます。大きく打ったときも小さく打ったときも可能です。これがいわゆる打突時における手の内の「冴え」につながってくるのです。打突の原則でもある「緊張と弛緩(脱力)」によって可能ですから、中級者以上の方はおできになるはずです。初心者の方や「私はならないぞ・・・」という方は、この先の「三挙動」や「一挙動」をしっかりと稽古されることをお勧めします。

 最近では、興味を持たせるためか、まだ、十分に竹刀操作ができていない初心者のやたらと早い時期から、打ち込み用の竹刀や防具を着けた元立ちを打たせる指導をされる方もいらっしゃいますが、これには疑問を覚えます。面をつけさせる直前の子供ならこうしたことも必要でしょうが、竹刀コントロールや手の内ができていない段階から打ち込ませると、たいがい手足が一致しない力任せのクセのある打ち方になってしまうようです。

 おっと、だいぶ横道にそれてしまいました。


 まずは「面の打ち方三挙動」ですが、
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 1.「いち」の号令で、中段の構えの手首と肘の関節の角度と両の握りを変え
   ずに、肩関節を中心に頭上まで振りかぶる
 2.「にー」の号令で、左足蹴り出しで右足を前に送りつつ、右腕が肩の高さ、
   左拳が鳩尾の高さまで振り下ろす
 3.振り下ろしと同時に、右足膝上の大腿直筋を強く緊張させ、左足を基本の
   足型の位置に引きつける
 4.「さん」の号令で、腕を面の位置から中段の構に戻しつつ、右足蹴り出し
   で左足を後方へ送り、右足を基本の足型の位置に引きつける
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となります。

 ポイントは上記した通り「脱力」でしょうか。1の振りかぶりと4の中段の構に戻るところでは、右手の力が十分に脱力されている必要があります。
 正しい振り方をカラダに覚え込ませる都合上、「三挙動」では発声は行ないません。

 留意点は、
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 ●振りかぶるとき息を吸い、振り下ろすとき息を吐く
 ●振りかぶるときは左手で、振り下ろすときは右手に意識を置く
 ●振りかぶったところの剣先は、水平以下にはさがらない
 ●振り下ろしの始動は左手で、以下右腕の関節を肩・肘・手首と順次しなやか
  に決め、剣先に力をかける
 ●打突時、左肘は伸ばさず、左拳は鳩尾よりも高くは上がらない
 ●振り下ろしを打突部位で止める際、両の親指の母指球をやや内側に絞るよう
  に使って押さえる
 ●3では右足で強く床を踏み締め、バランスは中段の構の時よりアップにする
 ●振りかぶりは急がず、振り下ろしはシャープに
 ●前後への移動は、できるだけ大きく行なう
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となります。


 面を打つ時に「左肘を伸ばして打つ」と指導される先生も多いと思いますが、右手と左手が同じ長さであり、「右手前」「左手後ろ」で握っているかぎり、両ひじが伸びて打突するためにはどうしてもどこかに無理が生じます。
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 ア、手首が立っている
 イ、右手の握りの位置をずらしている
 ウ、左肩を後ろに引き、相手に対して方のラインが斜めになる
 エ、左肩を上にあげ、肩のラインが床と平行でなくなる
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などが妙な点です。

 とくに子供の場合ウとエの傾向が強いですね。ムダ・ムリのない打ち方が理想ですから、気をつけたいです。
 どうして、このようなことがまかり通っているかですが、1.昔の先生が「伸ばすように」と指導したのがどこかで「伸ばす」に変ってきてしまったのではないか、2.戦前の教科書は基本を刀を使って解説しており、柄が極端に短かったため伸ばして打つことが可能だった、の2点を考察しています。


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