前の項の「上下素振り」の振りかぶりで「中段の構えの手首と肘の関節の角度と両の握りを変えずに、肩関節を中心に頭上まで振りかぶる」と書きましたが、これも異論が多いですね。多くの場合、振りかぶりの過程で左拳が前方へ移動していってしまうことが容認されています。
しかし、少し考えてみればわかることですが、中段の構えの崩れが少なく打突できる方が「早く」「ムダのない」打ち方と言えるはずです。とするならば、振りかぶりの過程で左拳が前方へ移動していくようなコースをたどることは、「ムダの多い振りかぶり」ということができます。私の場合、こうした振りかぶりを小野派一刀流を勉強することによって学びました。
小野派一刀流の極意である「切り落とし」は、相手の後より生じ、相手の太刀を己が鎬で弾き飛ばして一拍子で斬りつけるという、身を相手の刃の下にさらして勝ちを得る(一拍子の相打ちの勝ち)という豪胆な剣です。その理合は大胆かつ巧妙。しかし、一部のムダも許されない太刀さばきが要求されます。その小野派一刀流での振りかぶりが、「中段の構えの手首と肘の関節の角度と両の握りを変えずに・・・」というものなのです。
これを刀よりも軽く、直進するスピードがけた外れに速くなった竹刀剣道に応用しない手はありません。
さて、話を本題に戻しましょう。
上下素振りの次に教えるのが「斜め素振り」でしょうか。このあと三挙動で胴打ちをするときのベースにもなりますから、あえてこの段階で教えるようにします。
要領は、上下素振りと同じように前進後退をしながら行ないます。
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1.中段の構えの手首と肘の関節の角度と両の握りを変えずに、肩関節を中心
に頭上まで振りかぶる
2.左拳の位置を変えず、頭上で右拳を右耳上方まで切返す
3.左足蹴り出しで右足を前に送りつつ、右拳が右こめかみ付近を通るように
竹刀を斜めに下まで振り下ろす
4.振り下ろしと同時に、左足を基本の足型の位置に引きつける
5.手の内を真っすぐにし、1と同じように頭上まで振りかぶる
6.左拳の位置を変えず、頭上で左拳を左耳上方まで切返す
7.右足蹴り出しで左足を後ろにさげつつ、右拳が左こめかみ付近を通るよう
に竹刀を斜めに下まで振り下ろす
8.振り下ろしと同時に、右足を基本の足型の位置に引きつける
9.手の内を真っすぐにし、1と同じように頭上まで振りかぶる
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となります。
留意点は上下素振りと同じですが、さらに、
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●振りかぶりは斜めにせず、真っすぐに正中線を通って振り上げる
●一番下まで振り下ろしたときの位置は、正中線からはずれないようにする
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です。
「斜め素振り」は「ヘソの位置で中心線を交差し、振り下ろしと反対側の足先まで」と教える場合もありますが、初心者の場合、上体が突っ込んでしまったり肩のラインが平行を保てなくなってしまうので、振り下ろした時の剣先は正中線の位置(両足の間)とします。
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