「どうした史裕、怖くて声も出らぬか?」不動琉剣の師父、重徳は、自分の弟子が、この、自分
にとって最も危ういはずの事態が起こっても、何の反応も示さないのを見て、つい、この様な
愚問を発してしまった。すると、次の瞬間、この弟子の口から、もっと愚かしい返事が返って
来た。「先生、仰っている事の意味が全く解らぬ。」「・・・そうだろうな。お前は、このわし
が正裕との記憶を消してしまった故に、わしの言っている意味が解らぬであろう。良いか,史裕
よ、今こそ、お主はわしの封じていた記憶を蘇らせ、この、暗黒の国に掛かった呪縛を解き放た
ねばならぬ。この国にやってきた、お主の兄、正裕と供に!!」「?、弟って、何?それに、
この国に侵略しにやってきたのは、確か、世紀末覇王を自称している奴隷、ラゴウでは?」
「・・・この国にきたのが、ラゴウであったなら、わしは動かぬ。だが、この国にやってきたの
はラゴウではなく、正裕だ。じゃが、正裕ではお主を倒す事はできぬ。そこで、このわしが
お主の記憶を蘇らせるか、さもなくば、お前の一本を取る為に、この城にやって来たと言う訳じ
ゃ。さあ、おとなしく観念するが良い。史裕。」「ば・・バカな、そんなバカな!!よもや先生
が、正裕とか言う薄汚いネズミ一匹の為に、誇り高き我らが不動琉剣(示現流)を滅ぼそうと
仰るとは!!かかる暴言、例え師と言えども許せませぬ。さあ、かかってきんしゃい!!」
「フン、貴様のような小僧、わしがまともに相手すると思うか?」「ナ,何を〜っ!!それが、
かわいい弟子に向かって言う言葉ですか。もう許せぬ!!こちらから行くぞー!」「かかった
な」そう言うが早いか重徳は素早く史裕の背後に回りこみ、彼の記憶を蘇らせる当り判定「陽復
」をついた。「うおお〜、なんだこの気持ち良さは。うん、俺の目の前に立っている子供は誰だ
。・・あ、あれは少年時代の俺だ。で、では、俺が抱きかかえている赤ん坊は・・・。」
「そうじゃ、おぬしの兄、正裕じゃ。今,お主の目の前に映し出されている光景は、封じられて
いたお主自身の過去の記憶、お主と正裕が愛し合っていたころの記憶じゃ。」おえっ。
「お、おおお〜っ・・・。」「さあ、史裕よ。今こそ、その封印されていた記憶を呼び戻せ。
そして、あの麗しい兄弟愛を復活させ、正裕と供に魔神・英幸を倒すのじゃ!」「やだね。」
「!!な、何じゃとっ! ハッ、し、しまった。英幸の奴、既に史裕の記憶を抹消して・・・」
「フッフッフッ、我が兄は正裕などと言う乞食ではない。俺が兄と呼ぶはこの世に一人、英幸
のみだ。もし、彼が俺に処置を施していなければ、今ごろ俺は貴様の操り人形となって英幸兄
にゆみを引いていたであろう。さあ、ジジイ、貴様の命運ももはやこれまで!!覚悟を決めるが
良い。」「お、おのれ、こうなってはお前の一本を取るのみ。これを見よ、我が、剣道取装武衣
を!!」−剣道取装武衣ー剣道の国の名のある剣豪が、おのれの一本と引き換えに相手の一本
を奪い取ろうと言う覚悟を表している事を相手に示すべき時のみ着用」を許される衣装。この
武衣を見た相手もまた、己の一本をかけて闘う事が礼儀とされている。
「ほう、剣道取装武衣か・・。ならばこちらも己の一本をかけて闘わねばなるまい。」「くく・
・・取装武衣を着けてみたはいいものの、やはり、こ・わ・い (^^:う〜む、かくなる
上は・・・ニポンゴ、ワカリマセン。」「じゃからしこわ〜っ!!」遂に、史裕の剣が重徳の
当り判定に命中した。「いっぽぇ〜ん。ふ,不覚・・・。」こうして重徳は、己の蒔いた種を
刈り取ることなく、その一本を閉じた。