記事タイトル:電池を喰らう 〜愛・総集編1〜 


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お名前: Hide.   
管理人のHide.です。

趙翼さん、「電池を喰らう」の総まとめ、ありがとうございました。
お申し出に従いましてこれまでの「電池を喰らう」の削除をさせていただくことにいたし
ます(^^)

しかし、いったいいくつあるんだぁ?(^^;

お名前: 趙翼   
            謹上奏Hide.閣下 

臣・中書令趙翼謹んで申し上げます。

昨今のこの「いちに会の部屋」の情勢を顧みますに、スレッドの数、巷間に氾濫し、
為に、昔の懐かしきスレを読み上げようと致しましても、スレッドの数の余りの多さの
故に、該当のスレを探し採る事が困難となっているようでございます。
そこで、臣が愚考しますに、せめて、自分がこれまで立ち上げてきたスレと、嵐と思わしき
スレだけでも削除できぬものかと思い、とりあえず、『電池を喰らう』をこのように
一まとめにさせていただきました。
そこで提案でありますが、この際、臣がこれまでに立ち上げてきたスレだけでも、削除
なされては如何でしょうか?

もし、臣の提案をお叶え頂ければ、下部に存する懐かしき名スレを探し易くなりましょうし、
また、この総集編を立ち上げた臣の苦労も報われ、臣は、大層な果報者となる事ができまする。

とりあえず、よろしくご考慮の上、ご判断をお願い致します。
              

お名前: 趙翼   
治極まれば乱を生じ、乱、極まれば治に転ず、という。かつて、北条泰時の打ち建てた
鎌倉幕府も四百年の時を経て、大乱の時世を迎えようとしていた。かねてより御家人達
の腐敗政治に塗炭の苦しみを負い、幕府を打ち倒そうとしていた暴徒達を率いて、肥後
の邪教者麻原彰晃が、幕府に対して反乱の狼煙を上げたのである。麻原は自らを「大賢
良師」と名乗り、やがてその総兵力は数百万に膨れ上がり、反乱は全国規模に膨れ上が
り、時の人々は是が為に更に苦しみ、絶望の淵に追い込まれていたが、やがて希望の光
が差し向けられる。 
即ち、この乱世を終結して上は国家を安んじ、下は万民を慈しまんと三人の男達が立ち
あがった。 
その三人とは、後漢の光武帝の遣わした金印を知り、肝玉が大きくてブランブランして
いる・宮崎正裕(以下「正裕」)
その武勇において並び立つ者少なき猛勇であるのみならず、学問にも深い造詣を示す、
文武両道に秀でた、前大会一回戦で敗れた・高橋英明(以下「英明」)
その武力は実に兵士一万人に比すると言われる虎将、と言われるも裏づけの取れぬ男
・岩佐英範(以下「英範」)。
彼等は桃園で義兄弟の契りを交わし、天下の泰平をもたらす事を誓った。
「我等三人、生まれし月日は違えども、願わくは同年同月同日に死せん!!」
こうして彼らは義勇軍に参戦し、同じく、麻原の討伐軍に加わっていたセフィロスらと
共に反乱を鎮圧する。それから間も無く、麻原討伐に赴かずに兵力を蓄えていた肥後の
大名・菊池義武が上洛。帝と将軍を自分の傀儡として専横の限りを尽くす。
その為、再び彼ら義勇軍は決起して義武と対決し、激しい戦いの末、遂に義武を討ち取
る。
だが、まだ、乱世は始まったばかりであった。正裕らと共に義勇軍として戦ったセフィ
ロスはその間に時の将軍・足利義輝を自分の元に擁立し、その大いなる野望の実現の為
着々と勢力を伸ばし、また、下総国の結城地方の領主・結城政勝が、幕府の弱体に乗じ
て、自ら征夷大将軍を名乗り、幕府に叛旗を翻した。まだまだ、乱世は続く・・・。

お名前: 趙翼   
―続き―
ここ、武蔵国の河越城では、結城政勝討伐の為の評定が行われていた。
「正裕よ、今、偽将軍の座につき、幕府に楯突く政勝の専横を許す訳には
いきません。どうか、私に代わって政勝を討伐して下さい。」「ははっ、
上様(足利義輝)の命とあらば・・・。」話しているのは、デスピサロに
擁立された後、京の都より遷宮してこの河越城で彼に保護されている将軍
足利義輝と、義勇軍の兵卒として名を上げ、幕府の武将となった宮崎正裕
である。彼は義輝から非常に気に入られ、また、義輝より年上であった事
もあって、彼を始め周りから「皇叔」ならぬ「将叔」(将軍の叔父)と言
う称号で呼ばれていた。しかし、そんな彼の存在を内心苦々しく思ってい
る者もいた。誰あろう、将軍をだしに己の野望を果たそうとしていたデス
ピサロだ。しかし、正裕が表立って幕府に罪を犯しているのでは無い以上
、誅殺出来ないので、最大限利用する事にしていた。「正裕よ。わしは東
北の伊達政宗に睨みをきかしておかねばならぬので、貴殿が政勝を討たれ
い。そうじゃ、もし良ければ、わしの部下の椎名康胤と小貫頼久をそなた
の討伐軍に加えよう」「おう、ピサロ殿、そう言ってくれるならお言葉に
甘えよう。」

お名前: 趙翼   
「・・・・・ふん!やはり一人では何もできんのかっ!!も
ういい、さっさと連れていけ!康胤、頼久」「はっ、康胤と申す」「はっ
、頼久と申す」こうして、康胤と頼久が仲間に加わり、城を出て街に行こ
うと門まで来た時、一人の武将が追いかけてきた。高橋英明である。「正
裕殿、まさか私をおいて政勝討伐に・・、どうか私も陣列に加えて下され」
「おう、英明ではないか。心配するな。お前と私は義兄弟で一心同体。私
の方からお願いする」「ありがたき幸せ」こうして英明を加えた一行が城
を出て街に入ると、また一人の武将が駆けつけてきた。岩佐英範である
「兄者、水臭いぜ。この俺をおいて政勝討伐に向かうとは。な、俺も仲間
に煎れてくれよ」「心配するな英範。お前と私と英明とは一心同体ではな
いか」「ありがてえ」こうして、また一人勇将を加えた正裕軍は街で情報
収集と洒落込んだが、街の衆の反応は「ほへ〜」とか「反乱が氾濫してい
ます」とか「早く賊を退治して戦果を報告せんか」とか、てんで情報にな
ら無い駄洒落ばかり・・。
一方、その頃、デスピサロの本陣では、正裕が政勝討伐に向かったと知っ
て慌ててピサロの前に駆込む軍師・甲斐親直の姿があった。「と、殿、正
裕を政勝討伐に差し向けたは本当ですか!?」「ああ、わしは東北の伊達
政宗の動向を見張っておかねばならんからな」「何と言う事!殿は人を信
用し過ぎる。正裕は普段は我等に従順ですが、機会が訪れれば必ずや我等
に牙を剥きましょう!!」「何!それでは、政勝討伐もやらぬというのか
!?」「いえ、それはちゃんとやりましょう。しかし、殿の為ではなく、
己の為にです。某は、正裕が野に放たれたくさやになる事を恐れます」
「そ、そうか、しまった」

お名前: 趙翼   
―続き―
ピサロは憂えた。しかし、時既に遅く正裕軍は討伐に向かってしまった。
さて、この討伐軍が山道に入った時山影から彼らを見る二人の少女の姿が
あった。一人は「フォーセットアムール」の主人公コルク・ランス。そし
てもう一人は「Witch猫シリーズ」のヒロイン・刹那であった。
「ねえ、コルク姉さん、物乞い、もとい討伐軍がやってきたよ。」「ああ
、そうだね」「今回の戦は正裕の勝ちだろうね。何たって、総大将の器が
違う」「しかし、そのすぐ後でこの正裕軍は大いなる禍に合うよ」「領土
は追われ、腹心ともはぐれ、寂しく人に養われる、というのね」
・・・ともあれ、正裕率いる討伐軍は、結城にむけて進軍を続けたが、そ
の途中で英明が不安そうな顔をして正裕に言ってきた「兄上、私は河越を
出てからずっと思い続けて来たのですが、このまま政勝軍と戦っても苦戦
するのでは無いでしょうか」「何故?」「はい、この討伐軍には見た所軍
師が不在のようです。奴等と戦う前に軍師の任命を・・。」「そうだな、
確かに、軍師がいないと策略が使えないな・・よし、誰かを軍師にしよう」
「このメンバーの中で軍師になれるのは私と兄上(正裕)です」
こうして、正裕は自ら軍師となって総大将と掛持ちする事となり、万全(?)
の態勢を整えた正裕軍は、結城に向かう途中待ち構えていた結城政村と山
村良勝の軍勢を呆気なく撃破し、緒戦に大勝利を収めた正裕軍はその意気
天をもつかんばかりで、改めて政勝との決戦に赴いた。

お名前: 趙翼   
―続き―
その頃、正裕軍は緒戦に勝った勢いに乗じ、逆賊・結城政勝の居城・結城城に向けて
兵を進めていたが、下総国妙本寺の付近まで来た時―。
「あ、兄上、あれをっ!!」「おおっ!?」何と、それまで妙本寺の中で潜んでいた
僧兵・賊兵連中が一斉に打って出たと同時に、近くの山川や丘陵からも、山賊や川賊
の兵や旗が起きあがり正裕軍に向けて包囲攻撃を仕掛けてきたのだ。
「な、何だあいつらっ、こ、こっちに向かって来やがる!!」「あ、あの数は三千、
いや、五千はいるぞっ!!」「ひ、ひぃ〜っ!!」「こ、こらっ!!お、落ちつけぃ
お前達!!お主等はま、正裕軍の精鋭じゃろうがっ!!」動揺の余り浮き足立つ兵達
を必死に沈静化しようとする正裕であったが、混乱は中々収まらない。「おい、野郎
供、こうなりゃ敵陣を切り込みまくって包囲を突破するのよ!!兄貴っ、許可をくれ
!!」「よし!ならば、お前と英明に先頭を頼もう!行け!!」「おうっ!!」「御
意っ!」こうして、英範の提案に従って敵中突破を敢行した正裕軍であったが、賊軍
の兵力と、恐らく、この山賊供にも正裕に劣らぬ軍師がいたんだろう、その者の仕掛
けた「落木の計」によって大苦戦に陥り、何とか賊将を切って突破した時には、正裕
側も突破の先陣を受け持った英範の部隊とピサロの援軍の小貫頼久の部隊が壊滅して
二人とも大怪我を負ってしまい、他の部隊もほぼ壊滅に近い状況に追い込まれた。

お名前: 趙翼   
この闘いで正裕軍は敗れはしなかった物の、多くの侍、剣道家、武道家が戦死した。
(剣道家が沢山戦死、という文を見て怒ったり、悲しんだりしないでね。これ、戦な
のね)そこで、軍師・正裕は態勢を立て直すべく一旦、河越城に戻り、道具屋で「招
魂丹」を買って大怪我負った英範と頼久に与えて傷を癒した後、宿屋に泊まった。
さて、翌朝になると、損傷した各部隊の兵士数も何時の間にか完全に回復し、再び正
裕軍は結城城へと進軍を開始した。正裕軍の行軍は珍しく迅速で、その日の夕方には
結城に到着した。この報を聞いた賊将・結城政勝は、「まともに戦っても敵わぬ」と
思い、結城城に立て篭もったが、正裕軍、特に、英明・英範部隊の甚だしい猛攻の前
に結城軍は総崩れに陥り、多くの武士・剣道家達が討ち取られて、その夜には城も陥
落した。この猛攻に恐れをなした政勝は夜陰に乗じて城を脱出し、付近の洞窟に逃げ
込んだが、それを目ざとく察知した正裕軍はすぐにこれを追撃し、洞窟の中に入った。
その時はもう夜であって洞窟が暗かった事などもあって、とうとう正裕軍は政勝の敗
残軍を見つけられなかったが、一方で大きな収穫があった。恐らく、敵が物資貯蓄の
為に置いていたと思われる宝箱の中から、金銭を少々と、「銅の剣」を発見したので
ある。そして、これを正裕が装備した事で、正裕部隊の戦力がアップしたのだ。

お名前: 趙翼   
―続き―
銅の剣を発見して勢い込んだ正裕軍とは逆に、根城を奪われた結城軍の勇気は大いに
減退していた。そんな所に、正裕軍がこの洞窟に攻め寄せたと言う知らせが入り、賊
将・結城政勝はいても立っても煎られない位にいきり立っていた。「お、おのれっ!
!あの神奈川の若造が!将軍であるわしをここまで愚弄するか!!ええぃ!兵力はこ
ちらが上じゃ!!皆の者、奴等を粉砕しろ!!」「おお、あれに見えるは逆賊・政勝
の旗印!!全軍、奴に向かって突撃せよ!!」こうして、両軍の最も長い戦闘が始ま
った。最初、兵士数でまさる政勝軍が押していたが対する正裕軍も正裕隊を中心にし
て、英明・康胤隊を右陣に、英範・頼久隊を左陣に配置する形で「鶴翼の陣」を展開
、さらに、さきの山賊との闘いで正裕軍がレベルアップしたことにより軍師・正裕は
山賊の使っていた「落木の計」と「廉火の計」(火計の最弱バージョン)を覚えてい
たので、正裕はそれらの計略を、そして左右の英明・英範らは武力にものを言わせた
猛攻をと、武将達の質を最大限に生かした戦法で挑み、やがて、政勝軍は総崩れかつ
恐慌状態に陥り、賊将・政勝は乱戦の内に英範との一騎打ちで腕に傷を負い、逃げる
所を椎名康胤に首を討たれた。その他の将兵も、正裕の火計や、英範・英明の猛攻に
よって一人残らず殺され、生き残った武士・剣道家・武道家は皆無であった。
こうして、逆賊・結城政勝とその郎党を殲滅した正裕軍は大威張りで凱旋の途につい
たが、この凱旋を冷静な目で見つめる少女達の姿があった。
コルク・ランスと刹那であった。「コルク姉さん、もうすぐだね。」「ああ、もうす
ぐさ。正裕が大敵に追われて、弟達とはぐれて、一人寂しく人に養われる日々が到来
するのは・・」一体、何が起こると言うのか!?

お名前: 趙翼   
―続き―
各将軍の奮迅の働きによって、逆賊・結城政勝を討滅した正裕軍は、意気揚揚と
河越城へと凱旋していった。そして、一行が河越城の正門に通り掛った時、ピサ
ロより援軍として遣わされていた椎名康胤と小貫頼久が言った。「正裕殿、逆賊
・結城政勝が滅んだ今、我等がここに留まる理由もござらぬ。我等二人はこれよ
りピサロ様の都・江戸城に戻り、戦果を報告致しとうござる」「おう、お二方、
よくぞ今まで供に戦って下さった。この正裕、心より礼を申し上げる。ささ、ど
うか存分に都に帰還して手柄を報告してピサロ殿を安堵させてやりなされ」「そ
れでは、これで失礼致す。正裕殿もお達者で・・・。」こういって二人は隊列を
離れた。

お名前: 趙翼   
さて、一行が城の中に入ると、宿屋の前で立派な衣冠束帯をした人物が二人、誰
かを待っているかのように立っていた。そこで一行が「不思議な人物・・。」と
思って近くに行くと―「おお、秀克殿に実殿ではないか。一体、このような所で
何をなされているのですか?」「おお、正裕殿、一大事ですぞ。実は今、江戸で
はデスピサロ暗殺計画が発覚してしまい、それに怒ったピサロが結城政勝討伐の
為に都を離れていた正裕様を除く首謀者達全員を処刑し、この河越城下のどこか
にも、正裕様のお命を狙わんと、ピサロより派遣された刺客・車冑が潜んでいる
模様です。どうかお気を着け下され」「な、何と!そうでござったか。お二方、
かたじけのうござる」「ぼよんぼよん」――ここで、この二人、井上秀克と川名
実について話しておこう。この二人はいずれも早く剣道を志して、やがて、その
地方に名前を知られるようになると、推挙されて関東剣連の功曹に封じられ、そ
の後、ピサロに擁立された将軍義輝が関東遷都を行うとそれに仕える。その頃か
ら正裕を知るようになり、密かにこれに浸水、もとい心酔し、今に至ると言う訳
である。
所で、二人より事の次第を聞いた正裕、心配になって秀克達のいた宿屋の裏庭に
行くと、思いがけずそこに車冑達がいた。「正裕よ、すでに都ではデスピサロ暗
殺計画が発覚した。この上はお前を生かしておく訳にはいかん。取られろ!!」
だ〜が、車冑達は奮戦空しく呆気なく敗れ去り、車冑も首を取られた。
正裕軍はその勢いに乗じて河越城を占領し、秀克と実に戦果を報告した。
「車冑が敗れれば、次はピサロ自らこの河越に乗り込んで来るでしょう。」
「左様、できれば早くこの河越を打ち捨てて東北の雄、伊達政宗のもとに身を寄
せると良いでしょう。ピサロに対抗できる軍事力を持つ者は彼を置いて御座いま
せん」こうして彼等は河越城で連日連夜に渡って車冑を破った祝勝の宴を催し、
河越占領を喜んだ。勿論、この宴の中には秀克と実の姿もあった。

お名前: 趙翼   
―続き―
そうこうしている内に、国境警備の兵士より、デスピサロが自ら大軍を率いて
この河越城に進軍中、という報が舞い込んできた。この報に大いに驚いた正裕
は、それまでの酒浸りの酔いも一発で醒め、すぐさま評定を開き、かねてより
提案されていた秘策「河越を捨てて東北の伊達政宗の元に身を寄せる」と言う
ものが満場一致で採決された為に、早速実行に移す事となった。因みに、「正
裕殿、この我等も、お供に加えて下され」と言って井上秀克・川名実の両名が
正裕軍に加わったのもこの時であった。さて、こうして正裕軍は河越の街を出
たのだが、城外に出ると至る所にデスピサロ軍の旗鼓を掲げた大勢の軍兵が待
ち構えていた。

お名前: 趙翼   
何と、デスピサロ軍は既に正裕の居る河越城を取り巻いていたのである。
「ふん、やはり車冑では荷が重過ぎたか・・。だが、このピサロは違うぞ。皆
の者、かかれっ!!」その時、実が進言した。「早まってはなりませぬ。ここ
は何としても逃げ延びて、東北の伊達政宗のいる岩出山城に退き、再起を測り
ましょう」「うむ、逃げよう」こうして、正裕軍は退却したが、敵も、デスピ
サロを始め、村上義清、佐野昌綱、宇佐美定満、といった名将揃い。退却は至
難の業であった。そしてこの時、ピサロ軍の中には、ひょんな事からこの時代
に漂流してきた「古武将」と呼ばれる人々の一人であり、中国・唐王朝の末期
に、同志の王仙芝と供に叛乱を起こして一時は皇帝を名乗った梟雄・黄巣の姿
があった。彼はこの時代に漂流した後、自分を助けてくれた庄屋の手により、
ピサロに傭兵ならぬ傭将として仕えており、この戦いにも一隊長として参戦し
ていた。これらの名将率いる精兵の猛追の前に、正裕軍は戦わずして総崩れ状
態となり、気がつくと何時の間にか英明・英範隊が正裕本隊とはぐれてしまっ
ていた。
しかし、事態が事態であるだけに、悠長に両部隊を捜索など出来ようはずも無
く、やむをえず、正裕は残った軍に更に退却する様に命じた。圧倒的なピサロ
軍の兵力・戦力の前に正裕軍は惨敗し、その日はとうとう、英明・英範の部隊
とも合流できなかった。この様子を見て、ピサロ軍の将、佐野昌綱が言った。
「うわっははは正裕、野望も夢も今醒めたろう。デスピサロ様に可愛がられた
恩を忘れた外道畜生、今こそ天罰を思い知るが良い」
「ぬうう、昌綱!!」だが、このような状態ではどうしようも無かった。
今は、一刻も早く政宗の元に逃れるしか術はなかった・・・。 

お名前: 趙翼   
―続き―
話しは代わって、こちらは正裕軍。何とか無事に岩出山城に退却を果たし,政宗に義光が討ち取られた旨を報告し、
次の指示を仰ごうとして登城した正裕であったが、そこで正裕達を待っていたのは物凄く憤怒に満ちた表情を浮かべた伊達政宗と,
その幕僚達であった。
あまりの剣幕に一瞬ひるむ正裕であったが、取敢えず事の次第を報告しようと口を開いたその瞬間、政宗が静かな、しかし、厳しい口調で話しを遮った。
「解っておる。盛胤に続き、義光もまた、討ち取られたと言いたいのだろう。・・・あの、謎の武将とやらに、・・・しかし、それなら、もはやお主が
ここに戻って来る謂われも無いのではないかね」「・・確かに、敗戦の責は取るつもりです。しかし、その前に、
将兵に次の策をお与え頂きたいと思ってこうして参上に・・・」と、正裕が言い終わらない内に政宗が大声を上げた。
「まだ、しらばっくれる気か!!こちらには既に、密偵からの報告で、盛胤と義光を討った謎の武将が、お主の義弟、高橋英明だと言う事が解っているのだぞ。
と言う事は、どうせ貴様もデスピサロとグルになって、我が軍を内部から弱体化させる為に来たのだろう。そして、まんまと我が軍の猛将・相馬盛胤と最上義光を殺させて、
また多くの兵達を殺しておいて、それで、「次の作戦の指示を」とは、何と図々しい奴だ!!誰か、こやつの首をはねてこやつの同志の井上と川名を我が陣営にスカウトしろ!!」
と、政宗が命じるや否や、正裕の前には介錯用の名刀を持った侍達が、井上と川名の前にはドル袋をのせた三方を持った兵士達がそれぞれ取り囲んだ。しかし、
正裕は冷静な口調で言い返した。

お名前: 趙翼   
「お待ち下され、政宗殿、これは政宗殿の全くの誤解でございます。私達は河越が落城した時、命からがら身一つでここに逃れて参り、英明達との連絡もつかないばかりか、
その消息・生死すらも解り得ない状況でありました。どうして、秘密裏に連絡を取り合う事が出来ましょうや?」「・・う、うむむ・・・」
「英明もまた、私がここにいる事に気付いてないのでしょう。もし、気付いていれば、何を差置いても私の元に駆け付ける男でございます。」
「何っ、すると、英明をこちらに呼び寄せる事が出来ると言うのか!?」「はい、私がここにいる事が解れば」
「ふむう、確かに、盛胤や義光を軽々と討ち取った英明がここに来れば我が軍の戦力は補って余りある物となり、ピサロ軍を滅ぼす事も容易くなろう。
よし、君の言葉をもう一度信じ、江戸の英明の元に密使を出そう。それに当って君、すまんが英明宛の手紙を書いてくれ」「ははっ、承知致しました」
さて、こちらは江戸の英明。河越が陥落し、正裕と離れ離れになった後、デスピサロの追手に捕らえられ、それがためやむなくピサロに降伏して、
配下武将となっていた。
しかし、デスピサロは前々よりこの英明を痛く敬服しており、その為、降将と言う立場であるにも関わらず、ピサロは彼の為に三日毎に二人きりの小宴会を、
五日毎に無理矢理にでも文武百官を召集して大宴会を催し、また、周りの者にも日頃から英明を自分の賓客として丁重に扱うよう厳命していたので、
おかげで何一つ不自由な思いをする事無く優雅な生活を送っていたのである。だが、それでも英明の正裕に対する思いは変わる事無く、
しばしば正裕の事を思い出しては、ひたすらに無事をまじなっていた。それを見てふと、寂しさを覚えたピサロはある日、日頃英明と親交を持っていた
部下の釜海(ふかい)という韓国人の剣豪をよんでこう言った。「のう、わしは英明がここに来て以来、何一つ相手の気に障ることはしなかった。
あらゆる財宝を与え、山海の美味珍味を取り寄せ、彼の心を掴もうとした。だが、彼は未だに正裕の事を思っている。何故、わしに心を開いてくれぬ。
何故わしよりもそんなに正裕の事を思うのじゃ。わしに何が足りぬと言うのじゃ。」「解りました私が明日、英明の元に逝き、訳を聞いて参りましょう。」
「うむ、頼む」

お名前: 趙翼   
―そして、翌日―
「おお、釜海殿、よくおいで下された。さあさあ、どうか遠慮なくあがって下され。」「英明殿も、壮健のようで何よりでござる。この釜海、安心致しましたぞ。」
「所で、京はまた一体、どのようなご用ですかな?」「うむ、実は、そなたも知っての通り、我が殿はそなたを事の外ご敬服され、破格の待遇でそなたをもてなしておるが、
そなたはいつも正裕殿の事を思っているので、殿が寂しくお思いになられてな。それで、このわしを遣わしたという訳じゃ。」「ふむう、そう言う事でござったか。
確かに、ピサロ様からは多大な恩を受けた。しかし、わしと正裕様はかつて芋畑で義兄弟の契りをした仲ですので、あの方を裏切るつもりはありません。」
「ふむ、しかし、ピサロ様も正裕殿に比する優れたお方だと思うがのう・・」「私と正裕様の仲は心による仲です。ピサロ様とのような、物による仲ではありません。
私は、何も無くとも、その心の契りを持つ正裕様に全ての物に勝る価値を見、また、そのような正裕様を喜ばせる事を一身の口腹と思っています。」「・・左様か・・」
「だが、ピサロ様のご恩も、だからと言って無視は出来ぬ」」

お名前: 趙翼   
―続き―
その夜、高橋英明の邸宅に二人の、占い師のような恰好をした女性がやってきた。一人は、宮崎正裕
の手紙を持ってきた、伊達政宗の密使・橋本真希と、もう一人は、かつて、河越で正裕や英明と離れ
離れになって、そのまま行方不明になっていた義弟・英範からの密使・阿部朋子である。聞く所によ
れば、英範は、河越で正裕達とはぐれた後、しばらくは僅かに残った自分の手勢と諸国を彷徨ってい
たが、やがて、下野国の烏山城が山賊に制圧されているという情報を聞いて、そこに乗込んで、山賊
どもをコテンパンに叩きのめして自分がそこの城主となり、その後、付近の町村から浪人や野武士、
兵士を集め、今では下野一国の太守となって、正裕を迎え入れる好機を待ちわびていると言う事であ
った。密使・真希の手紙を読んだ英明は、正裕が東北で無事に暮らしているのを見て、「うっうっ・
・・殿、ご無事でございましたか」とつい、感涙をもらし、こう言った「殿の居場所が解ったからに
は、もうここに長居する必要も無い。明日にでも、ここを発って殿の元に馳せ参じる事にしよう。そ
なたには、急ぎ、殿の元に戻ってこの事を伝えてもらいたい」「解りました。どうか、道中、お気を
つけて・・・」「では、私も失礼して、英範様にお伝え致します。」「うむ、頼もう。必ず、英範の
所にも寄る事にしよう。よろしく伝えてくれ」二人が帰った後、英明は屋敷のテーブルにピサロへの
、今までの自分に対する破格のもてなしに心からの感謝をこめた礼状をおき、邸を後にして城門の所
に向かった。そこには二人の門番が立っていたが、英明を見ると、門の前に立ちふさがってこう言っ
た。

お名前: 趙翼   
「これは英明様。今日はどのようなご用でしょうか?」「うむ、実はわしの義兄が東北にいるのが解
ってな、これからそこに向かう所じゃ。」「いいえ、なりません。ピサロ様のお許しが無くては例え
英明様でもこの門をお通しすることはできません。お引き取り下さい。」「そうか、素直には通して
くれないか。やむを得ぬ、お主達の一本を取る事になるな。」「ひ。ひえ〜っ、わ、解りました、解
りました。どうぞ、お通り下さい」「うむ、すまんな。」
城門を出てしばらく行っていると、事の次第を門番より聞いたピサロ達が、慌てて追い掛けて来た。
「英明、いやに早い出発だな。」「はい、東北に我が殿ありと聞いたので、何とぞ私の望、聞き入れ
て下さい。」「解っている。わしも天下の奸雄じゃ。願いは聞こう。只、お前を引き止めておきたくて、
門番に道をふさぐ様命じた。その心の狭さを恥じて、どうせ送り出すなら気持ち良く送り出そう
とこうして来た訳じゃ。」「ピサロ様、ありがとうございます・・・それでは、御免!!」「うむ、
正裕に宜しくな・・」こうして、ピサロの元を離れた英明は、一路、義兄・正裕の元へと向かった。
しかし、そこに行くまでには、五つの関所を血路を開いて突破せねばならない運命にある事を、英明
は今だ知る由もなかった。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、デスピサロと別れた英明達は、東北にいる義兄・正裕の元に向かうべく、馬を
進めていたが、やがて、夜になり、道もよく解らなくなってきたので、近くの家に頼
んで泊めてもらう事にした。そこで、泊めてくれそうな家を探してしばらく進んでい
ると、人里から離れた所に一件の邸が建っていた。「おお、あそこの家ならば大きい
家だから泊めてくれるだろう」そして、その家の門前に立って言った「たのもー、旅
の者でござるが、今夜一晩、我等に宿を御貸し頂きたい」すると、中から一人の老人
が現われて、英明にこう言った。「お貸ししても善いのじゃが、そなた達はどなた様
じゃ」「怪しい者ではござらん。宮崎正裕の義弟、高橋英明という者でござる」「高
橋英明!と言われると、あの、相馬盛胤や最上義光を討ったお方かね?」「そうでご
ざる」「そうでございますか、貴方様が英明様でございますか。貴方様の勇猛(?)
ぶり、そして、忠節ぶり、私のような老いぼれの耳にまで入ってございます。さあさ
あ、遠慮はいりませぬ。喜んで御貸し致しますぞ。」「かたじけない」そして、彼は
中に入るとメイド達を全て呼び集めて、嬉々とした表情を浮かべて言った。「さあさ
あ、皆、腕によりをかけて美味しいごちそうを作りおもてなしするのじゃ」「はい、
かしこまりましたご主人様。私どもも、腕によりをかけてごちそうを作り、英明様を
おもてなし致します」と言うとメイド達もまた、嬉々とした表情を浮かべながら作業
場へと戻っていった。そしてその夜は皆で英明を取り囲んでの大宴会。これにはさす
がの英明も恐縮して思わず言った「いやあ、こんなにもてなされてはかえって恐縮で
す」すると、老人が言った「いやいや、貴方様のような人をお泊めできてコーエー、
じゃなかった光栄ですわい」

お名前: 趙翼   
―そして、翌朝―
「いろいろお世話になりました」「いやいや、お急ぎでなければもっと泊まってもら
いたいのじゃが・・、あっ、そうそう、この手紙を御持ちなされ」「何でしょうか?」
わしの息子は胡班と言って須賀川の太守王植に仕えてございます。東北に向かうには
須賀川は通り道、何かのお役に立つでしょう」「何から何までのお心づかい、改めて
お礼を申します。では。」「お気をつけなされ」さて、一行が老人と別れ、しばらく
道を進んでいると、やがて、関所が見えてきた「英明様、関所でございます」「うむ
、東北にいくまでに五つの関所を通らねばならぬ」「ここは五百の兵が守っていると
聞いています」「ふーん・・、よし、ここで待っていろ。掛け合ってくる。」そして
英明達は歩を進め、関門の前に来ると言った「東北へ下る旅人でござる。願わくば、
関門の通過を許されたい」すると、門の中から、騎馬武者を数人連れて、一人の武将
が現われた。「そう言うお主は英明殿だな」「さよう。孔秀殿・・、でござったか、
ここを通して頂きたい。」「ピサロ様の告文を御持ちかな」「それがつい、急いで来
たもので忘れ申した」「ただの旅人ならば関所の割符、公の通行ならば告文が無けれ
ばならぬ。そのくらいの事はご存知であろう。いかに英明殿であろうと通すわけには
いかん。引き返し、告文を持って参られい」「今更、ここから都に引き返せるか、そ
れにピサロとは約束をしてある。立ち去る日がくれば好きな時に立ち去ってよいとい
う約束をな」「そんな約束、我々は聞いておらぬ。さあさあ、都にお帰りなされ」
「解らぬ男だな、ならば腕ずくでもまかり通るぞ」「こやつ、役人を脅すつもりか!
そんな脅しにのって関所の役人が務まるか!!ええぃ、めしとれい!!」「やむをえ
ん」そう言うと英明はすばやく剣をぬいて孔秀の首を呆気なく切断。そのまま、将が
討たれて唖然としている関所の兵を尻目に、悠々と通貨する英明達であった。

お名前: 趙翼   
さて、英明が第一の関所を突破したその翌日、早くもその報せは第二の関所に通知
された。この報せを受けた第二の関所の代官・韓福は烈火の如く怒り、すぐに関所
の全軍に戦闘配置について、英明一行が到着次第、迎撃するように命じた。「英明
め、関所破りとはピサロ様をないがしろにするにも程がある。このわしが絶対に貴
様を殺してやるわ!!」と勇猛果敢に意気込み、英明に討ちかかっていった韓福で
あったが、自分の剣を抜いて英明に斬りかかる前に英明の凄速の剛剣によって呆気
なく真っ二つ。第一の関所の時と同様に、将を打たれて唖然としている兵を余所に
悠々と通り過ぎていく英明一行であった。
しかし、その時、関所の櫓の上で一部始終を見ていた一人の男が、いきなり櫓から
飛び降りた。「あっ、おい!!何をするんだ、危ないぞっ!!」しかし男は、仲間
の兵士達の姿を横目に、関所の塀や外に生えている木々の間を次から次に身軽な跳
躍力を以って飛び越えて行くと、やがて何事もないかの如く静かに着地し、そのま
ま風のような速さで走り抜けて行った。この光景を只、呆然と見送る他の兵士達。
「い、行っちまった・・。あ、あいつは一体、何なんだ?」「も、もしかして、ど
、どこかの忍者なのか?」やがて男は、ある場所に辿りついた。ここに、自分の見
てきた一部始終を報告する主人がいるのである。その主人は、第三の関所の代官で
、名前を弁喜と言った。男は、主人に報告した「弁喜様、英明一行が第二の関所を
突破しました。間も無くこの第三の関所に押し寄せて参りましょう。」「そうか、
では、かねてよりの計画の実行に移れ」「はっ」
一体、どうなってしまうのか!?(垂木勉ふうに) 

お名前: 趙翼   
―続き―
しばらくして、英明一行は、第三の関所に辿り着いた。「東北に向かう高橋
英明と申す者だが、ここを通して頂きたい。」すると、門の中から騎馬武者
達を従えた関所の代官と思しき人物が現われて、こう言った。「高橋英明、
と申されると、あの盛胤や義光を討たれた英明殿でござるか?」「そうだが」
「これはこれは、貴方様のお噂はこちらにまで届いてございます。こんな所
でお目にかかろうとは、ささ、遠慮はいりませぬ。どうぞ、お入り下され。」
「これは、かたじけのうござる・・。」「如何でございましょう。こんな所
で天下の豪傑に出会えたのも何かのご縁、一献差上げたいのですが・・、そ
れにご夫人の為に一夜の宿もとらねばなりますまい」「うむ」「この先に、
この地では有名な江戸崎不動院という寺がございます。よろしければ・・」
「うむ」

お名前: 趙翼   
英明達が代官・弁喜の案内のもとにしばらく進んでいくと、やがて、立派な
門構えをした寺に辿り着いた。「あれが不動院でござる。さあさあ、ここな
らゆっくりと寛げるでしょう。・・・・お〜い、妙円和尚、妙円和尚はいる
か。」すると寺の中から一人の老僧が出てきた「これは弁喜様」「おう、和
尚か、この方は英明様と言って大切なお客様じゃ。粗相のないようおもてな
ししてくれ」「承知致しました。さあさあ、英明様、どうぞこちらへ」「う
む」「所で英明様は郷里の京都を出られてからどの位になりますかな」「そ
うよなぁ、3年になるか」「それならば私の事をお忘れで御座いましょう」
「ほう、和尚も京都の生まれか」「はい」「和尚!!お客様を案内もせず、
何を喋っている?」「はいはい、弁喜様、失礼致しました。・・・さあ、英
明様、こちらへ」と言うと、和尚は英明に向けて目配せをした。(何の目配
せだ?和尚はわしに何を知らせようとしたのだ・・・・そうか!読めたぞ。
どうも、話しが上手過ぎると思ったわ!)「いやあ、こんな愉快な夜はござ
らん。英明様の噂を耳にする度、どんなお人かとお慕い申しておりました。
さあさあ、どうか一杯あけて下さい」「・・・この酒はしびれ薬でも入って
いるのか」「な、何と言われます」「弁喜とやら、この英明がそれくらいの
事を見抜けぬ男と思うか」「だ、誰か!」弁喜が人を呼ぶと部屋の中に兵士
達が入ってきた。しかし、元より英明の敵ではなく、次から次に討ち取られ
、この状況に恐れをなした兵士どもは我先にと逃げていった。「あっ、これ
逃げるな」と言う弁喜の叱責も虚しく、寺に残ったのは弁喜一人。「さてと
、弁喜よ、どうする?」「こ、こうなれば俺一人の手で捕える!」と言って
流星槌を振りまわしながら向かうも、「わしを捕えるつもりならそれだけの
覚悟をしておけ!!」といわれて呆気なく首と胴が離れ離れ。こうして、弁
喜を倒した英明一行はそうそうに不動院を立ち去り、先を急いだ。
しかしこの後、信じられない展開が!!(垂木勉風に)。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、妙円和尚のお陰で弁喜の死の罠から脱した英明一行は、一刻も早
く東北の雄、伊達正宗の元に身を寄せている義兄・宮崎正裕の元に向か
うべく、先を急いでいた。
一方その頃、第四の関所では、そこの代官の王植が、「英明が遂に第三
の関所を突破し、代官・弁喜も討ち取られた」という報を密偵から受けてい
た。
「ほほう、すると英明は、今こちらに向かっていると言うのか」「はい、間も
無くこの、第四の関所に到達するでしょう」「ふむう、そうか・・・よし、ならば
策を以って殺そう」「・・と、言いますと?」。密偵が怪訝な顔をしてそう尋ね
ると、王植は俄かに邪悪な笑みを浮かべながら言った「うむ、まず、関所はおと
なしく通すのだ。そして、適当な宿所をあてがってそこに泊めよ。」「は、
はい」「そして、夜になったら奴らに気づかれぬ様に油を染み込ませた薪や
柴を宿所の周りに積み上げて、寝静まった頃を見計らって火を放ち、焼き殺
すのだ」「成るほど、それならば流石の英明も一たまりもありませんな」
「よし、そうときまれば早速、策の準備にとりかかるぞ。よいな、くれぐれもぬ
かりの無い様にな」「はい」

お名前: 趙翼   
かくして、第四の関所は、王植の必勝の策を胸に秘め、英明一行を待ち構
える事となった。この策戦、一見すると無駄の無い妙案のようではあるが・
・・。
やがて、英明一行が、この関所に姿を現した。
「東北に向かう高橋英明と申す者。ここを通して頂きたい。」すると、城門か
ら数人の兵士を引き連れた一人の若い騎馬武者が現れて、言った。「高橋
英明と申されますと、あの、盛胤や義光を討った英明様で御座いますか?」
「そうだ」「左様でございますか、ここの代官・王植様は貴方様に敵意などは
微塵も持っておりませぬ。いささか粗宴を設けて貴方様の旅の慰めとしたい
と言う事でございます。」「いや、そのようにお気使いなくとも結構。我等を只
の旅人と思い、通して下されば結構でござる」「しかし、それでは私共が代官
に叱られてしまいます」「ならば、どこか、宿を手配して下さいますか。わしも
部下達もここの所ずっと野宿だったもので、体が痒うてたまらぬ。」「解りまし
た。ならばこちらへ」英明どもが騎馬武者のあとについて暫く行くと、やがて、
町の奥の方に大きな別荘が見えてきた。「あの別荘をお使い下さい」「おお、
これはあり難い。それでは遠慮無く使わせて頂きますぞ。それでは、御免」
英明達が別荘の中に入りこんだのを見て、兵士の一人が騎馬武者に言った。

お名前: 趙翼   
「胡班様、うまく行きましたね。これで、さしもの英明も真っ黒焦げですね」
「うん、だが、まだ油断はできん。俺はちょっとそこら辺で用を足してくるから、
お前等しっかりと見張りを頼むぞ」と、言い残すとその、胡班と名乗る騎馬武
者は、英明の別荘の裏手にまわって行った。
「ふう、仕事の最中に小便するのも中々乙だわな」と極楽気分に浸っていると
、後の方から大声が飛んで来た。「お主、そこで何をしている!?」
「!!こ、これは英明様・・。」「おう、君はさっきの・・、一体、こんな所で何を
しているのだ?」「は、はい、申し遅れましたが、私は代官より仰せつかってこ
の近辺の警備を担当している胡班と申します」「おお、そうであったか。ならば
、よろしくお願い致す」「は、はい、それでは・・。」「待て!」「ビビクゥッ!!(
おわっ!!ど、どうすんだよ、ビックリした余り、実が出ちまったよ!!)は・・
はい。」「今、名を何と言った?」「こ・・胡班と申します」「おお、おぬしが胡班
か、見逃してしまう所だった。」「??」「実は道中、君のお父上に宿を貸して
頂いてな。その時に君宛に手紙をもらったのだ。ほら、これがそうだ」「は・・
拝見致します」
胡班は父から宛てられた手紙を暫く無言で読んでいたが、やがて、何を思った
か、いきなり英明の前にひれ伏したのである。
一体、何が起こったと言うのか!?(垂木 勉風に)

お名前: 趙翼   
―続き―
「どうした」と英明が尋ねると、胡班は申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、
おもむろに訳を話し始めた。「実は、我々が今日、英明様をお迎えしたのは貴
方様を油断させておびき寄せ、機を見て謀殺する、という代官・王植の策でご
ざいました。しかし、父の手紙を読んでいる内に、私は天下に対してとんでも
ない大罪を犯そうとしている事に気付きましたのでございます。英明様!どう
か一刻も早くここをお発ち下さい。間も無く、夜になりますが、その時になっ
たら、我々は手勢を以って貴方様の宿舎を包囲し、火を放って貴方方を焼き殺
す手筈になっているので御座います。ですから、どうか早くお逃げ下さい!!」
「そうか、よく知らせてくれた!所で、今、代官はどこにいるか?」「奉行所
におりますが・・・」「そうか、ありがとう。」と、胡班に礼を言うと、英明
はすぐに宿舎に戻り、部下達に訳を話して先に行かせると、単身、代官の所へ
と向かった。
その頃、奉行所では、何にも知らない王植が、夜が来るのを今か今かとばかり
に待ち焦がれていた。そんな折―。
「代官はおられるか?」「うん?わしはここだ。何事じゃ?」「わしは高橋英
明、お主の首、貰い受ける!!」「ぅあっっ!!」こうして、あわれ王植は逃
げる事すらできずに英明の剣の餌食となった。(・・・な、何で解ったの・・
さ、さては胡班のヤシ・・)こうして、第四の関所も、胡班のお陰で悠々と突
破したのである。

お名前: 趙翼   
旅は続く・・・。
その後、英明一行は、関東と東北の境となる阿武隈川の渡しに
辿り着いた。そしてそこで、またもや、ピサロの配下・秦棋と
一悶着を起こし、そして、いつもの如く、英明がこれを瞬殺し
て、一見落着となるのだが―。
―陸前国・阿武隈川の渡し―
「止まられい!余はこの渡しを守る代官・秦棋だ。お主は何者
だ。名を名乗られい。」「高橋英明」「・・・どこへ行かれる」
「東北へ」「告文を御持ちであろうな」「そんなものは無い」
「デスピサロ様の告文が無ければここは通せぬ!!」「・・・
秦棋、わしがどうやってここまで来たかすでに耳に入っておろう。
邪魔をする者は斬る」「ピサロ様に逆らう気か!!」「ピサロは
幕府の重臣、拙者も幕府の一臣!幕府の命ならともかく、何で
ピサロの下知に服従せねばならんのだ」「ぬうう、言わせておけば
、だが、俺はあいつらとは違うぞ!」「ほう、ならばお前は盛胤、
義光よりも強いと言うのか!!」こうして、秦棋も、英明の手に
よって、これまでの代官達と一体、どこが違うのか説明もしない
まま、瞬殺されたのであった。ちゃんちゃん。

お名前: 趙翼   
―続き―
旅はまだまだ続く。英明が阿武隈川を渡って、しばらく進んでいくと、
幾人もの人影と「お〜い」と何やら自分達をよぶ掛け声らしきものが
聞こえてきた。その人影はみるみる内に自分達の方に近づき、やがて
、武装した部隊の姿となって自分達の目の前に止まった。英明はそこ
で、自分にとって見覚えのある顔を見つけた。榊原康政である。「ほ
う、康政、おぬしか」「おう、英明、やっと追いついたぞ。お前は、
みだりに関所を破り六将を殺ししかも我が部下の秦棋まで斬ったと聞
く。もう許せぬ。この榊原康政がその首を貰う!!」「うるせえ、莫
迦」「おのれ!!人もなげなる大言!許せぬ!その首、拙者が貰った
!」と、こうして威勢よく打ちかかっていったは良い物の、疲労困憊
してるとは言え、さすがは高橋英明。康政の剣を余裕でかわしたばか
りか、「流石、歴戦の強者、見事だ」と、相手の武を誉める余裕を見
せる程。もっとも、短気な康政は「ほざくな!!」と言って怒鳴り返
したが。(・・それにしても全く、この逃避行、代償が高くつきすぎた
な・・・)

お名前: 趙翼   
―続き―
しかし、榊原康政もデスピサロ軍の中では十本の指に入る万夫不当の猛将。
さすがの英明もすぐには決着をつけられずに、只々時間が過ぎていった。
と、そうこうしていると、向こうの彼方から一人の早馬の影が土煙を挙げて
近づいてくるのが見えた。「待ちなされ!!双方、戦いを止めなされ!!」
その言葉に促され、闘いを中断してその人物の方を見る両者。二人が戦いを
中断したのを見届け、その人物は言葉を続ける。「ピサロ様直筆の告文でご
ざいます。」「何?ピサロ様の」「はい、ピサロ様は高橋殿の忠義を憐れみ
、関所は全て通してやれとのお言葉でございます。」「何!?ピサロ様はこ
の男が関所を破り六将を殺したことをしっての事か?」「いえ、これはそれ
以前に書かれた物でございます。」「それみろ、ご存知なら告文など書かれ
るはずはない」「わしがひっ捕え、ピサロ様のサタを受けよう!!行くぞ、
英明!!」「うるせえ、莫迦」と、またも英明に討ちかかって行く康政。そ
して、呆れた表情でそれの相手をする英明。そして、しばらくすると、また
もや向こうの方から早馬がやってきた。「お待ち下され!!」「またか、え
えい、一体何だ?」「はい、ピサロ様は告文を持たねば必ず揉め事が起きる
であろうと申され、次々と三度までも告文を発せられました。」「・・うぬ
ぬ、ということはひっ捕えてこいと言う事だろう!!それならひっ捕えてや
る!!」と、三度英明に討ちかかろうとしたその時―。

お名前: 趙翼   
「康政、強情もいい加減にしろ!!」早馬に続いて二人の前に駆けつけてき
た一人の武将が大音声で呼ばわった。それを聞いて討ちかかるのを辞め、声
の方を向く康政。「誰だ?」「デスピサロ副将軍はひとかたならぬご心配で
な。お主のような強情者もいるからな」「何が強情だ!!って言うかお前、
誰?」「ピサロ様は第一の関所の孔秀が斬られたよしを聞かれ、『わしの心
配りが足りなかった。もし行く先々で同じ事が起こったらあたら諸所の代官
を死なせてしまう』と・・・。そこで二度まで告文を発せられ、それでも心
配で、この拙者をよこしたのだ」「どうしてそこまで英明をかばう!!それ
に、お前は一体誰だ!?」「ピサロ様は英明の忠義な心を愛されているのだ
もし、これ以上闘うと、デスピサロ様に逆らう事になるぞ」「むむむ・・誰
かは知らんが確かにその通りだな・・。」「英明殿、ピサロ様は約束を破る
ようなお方ではない。行かれるがよい」「誰かは知らんが、何から何まで痛
み入る。ピサロ殿の信義を感謝し、大切な部下をあやめた事を君からわびて
くれ」「うむ」「では、ごめん」と、こうして、英明は再び出発した。その
様子を武将は満面の微笑みを称えて見送り、康政は複雑な面持ちで送ったの
であった。(おう、今日は死者が出ずに、使者が出ただけで済んだな。しかし
、この武将は一体誰なんだ?)

お名前: 趙翼   
―続き―
「いよいよだ、いよいよ兄者に逢えるのだな」阿武隈川を渡って東北の地
に辿り着いた英明は、もうすぐ、正裕に会えると言う、狂喜したくなる気
持ちを抑えつつ、馬を進めていた。と、そこへ呼び声を上げつつ、一騎の
騎兵が馬を蹴立ててこちらに近づいてきた。「おう、誰かと思えば釜海殿
ではないか。一体、どうしたと言うのだ?」「はっはっ、いや、何、英明
殿の意気にわしも心打たれてな、それで、思案の末に、ピサロ様の元を抜
け出し、英明殿のお供をしようと思ってな。」「おお、それでは」「うむ
、このわしも一念発起して、正裕様の為に力を尽くすつもりだ」「おお、
そうか!釜海殿のような万夫不当の猛将に来て頂ければ、正裕軍にとって
恐れる者など何一つないと言うものだ。兄者に代わってお礼申し上げるぞ」
「はっはっは、これで正裕殿にもう一人、同年同月同日に死ぬ義兄弟が増
えましたな」
こうして、また一人、優れた人物が加わった正裕軍であった。さて、釜海
を加えた英明一行は、彼の歓迎の宴も兼ねて、その日の宿を取る為に、米
沢城に向かった。だが、そこはすでに、かつての米沢城の面影を無くして
いた。というのは、その城には、かつて、麻原彰晃の部下として闘った黄
巾賊の闘将・○○雄介が城主として居座り、名も「臥牛城」と改められて
いたのだ。南無。

お名前: 趙翼   
―続き―
「ほう、そう言う事もあったのか」英明と釜海はそれを聞いた時
、思わず吹き出してしまった。「英明殿、その雄介とかいう男に
逢ってみようか、中々面白そうな男だ」「うむ、そうしよう」
こうして、二人は賊退治の為に臥牛城に入って行った。城門を過
ぎてしばらくすると賊達が取り囲んでこう言った。「てめえら、
無事にこの城中を通過し竹りゃみぐるみ追いていきな。」「ふふ
ふ、賊にまで落ちぶれると相手をみ抜く力も衰えるか」「何っ!?」
と、勢い込んでいったは良いが、英明の無言の威厳に気おされ、かえ
ってビビル始末。「こ、こいつ」「お頭、ちちょっと待って下さい」
「なんでえ」「あの顔、うわさの英明そっくりです」「そ、そういえば
・・あなたのお名前をお聞かせ願いたい」「高橋英明」「釜海」
「ひ―ッ、や、やっぱり」と賊達は英明の名前を聞くやいなや一斉に
平伏してしまった。

お名前: 趙翼   
―続き―
「お前等、頭が高い!!おじぎせんか!?」「へ・・へえ」と、頭らしき
人物がそう言うと、他の連中も一斉に英明の前にひざまづいた。「?、一
体、どうした事かな?」「へえ、貴方様のお噂は耳にタコが出来るほど聞
いておりまする。」「ほう、誰に?」この町の宮殿に住む関東の雄介と言
う人物でございます」「関東の雄介?知らんな」「はい、英明様はご存知
ありますまい。雄介、即ち鳥居雄介様はその昔、麻原の義弟にして、黄巾
賊の幹部・張宝に従っていましたが、今は山村に隠れ、ただ将軍の威名を
慕い、いつの日かお目に掛かれる事を生きがいとしている豪傑でございま
す」「ほう、そうなのか。それは中々見所がありそうな御仁だ」「お願い
でございます。どうか雄介様に会ってやって下さいまし」「うむ」「おい
、英明様の気の変わらぬ内に雄介様にお報せしる」

お名前: 趙翼   
「へえ」「さあさあ、
こちらでございます」男の案内に従って町の中を行くと、しばらくして、
宮殿が見えてきた。更にそこに近づいて行くと、宮殿の正門の所に、何や
ら武将のような恰好をした男が一人、立っていた。「おゅ、あそこです。
あそこにいらっしゃるお方が雄介様です」その武将は英明が近づいて来る
と、まるで、自分が真に仕える名君を見つけた名将の如く顔中に歓びの表
情を称えながら英明の前に平伏した。「貴殿が雄介殿か」「はっ」「この
まろを知っているとか」「はっ、拙者が黄巾賊に属していた頃戦場で英明
様の鬼神の如き勇姿をたびたび見かけましてございます」「ふむ」「その
黄巾賊も今や滅び、拙者はこうやって山村に身を隠して賊党の群の中で生
きておりました。しかしいつまでも賊党の中に身をゆだねていく気はござ
いませぬ。お願いでございますどうかこの身をお救い下され」「救えとは
?」「英明様にお仕えしたいのです。このままでは心まで賊党になってし
まいます。邪道を脱しまっとうな道を歩みたいのでございます」「心が綺
麗な人と見えるな」「英明様が拾って下さるなら死すともいといませぬ」
だが、君を慕っているこの大勢の将兵はどうする」「ここにいる将兵は皆
、貴方様の名前を聞き、お慕いしてる者ばかりです。拙者が従えば、皆も
ここを出て、英明様に従いましょう」

お名前: 趙翼   
それはちと困った相談だ。ゲリラ
を引きつれて殿にあえば世間の口は何というであろう。殿が軍閥呼ばわり
されかねぬ」「・・・さようで御座いましたな。泥にまみれた体、世間は
急に清くは見てくれますまいな。だが、ここでお慕いする将軍に見捨てら
れてはもう人間として立ち直れないかも知れません。この通りです。英明
様。どうか拙者を漢(おとこ)にして下され。明るいおてんとう様の下をど
うどうと偉そうな立居振舞で歩ける剣道家にして下され。「ふむう」「困
ったのう、わしは部下はともかく弟子を取る気はあまり無いのだが・・、
ともかく、釜海殿に相談してくる」「・・釜海殿、今の話しをお聞きにな
られましたか」「うむ」「如何いたしましょう」「確かに、その気もない
のに弟子を取るのはそなたにもきつかろう。だが、剣道にはまりたがって
いる者を見捨てるのも憐れな気がするというものなり・・よし、かなえて
遣わすが善い」「有り難きお言葉」「雄介殿、釜海殿のお許しが出た。お
主一人だけは弟子としよう」「おお、かたじけのうござる」「雄介様、お
慕いできるお方に仕えられようございましたね」「ああ」「所で、五郎左
とか言ったか・・残る手下はお前が預かれ」「へっ、俺が」びっくりした
表情で英明の方を見る五郎左。それを見て、英明は言葉を続ける。「誰か
がまとめねばみなちりぢりになり、里へ降りて悪い事をしでかすかも知れ
ぬ」「あっ・・」「時期が来たら必ず迎えをよこすそれまではこの城で大
人しく待っておれ」「解りました。そう致します」「それでは雄介、参る
ぞ」「はっ」「雄介様、お達者で」「ああ、お前達もな」「うぅ・・早く
お迎えに来て下せえ」「はっはっ、随分慕われているのう」「はい、彼等
も、根は気のいい、剣道好きな連中なんです」
こうして、英明一行は新しい友を加えてさらに旅を続けた。
次回・一体、どうなってしまうのか!?(垂木勉ふうに)

お名前: 趙翼   
―続き―
その頃、伊達政宗の元に身を寄せ、寂しい隠居生活を送って
いた宮崎正裕は、大志を抱きながらもそれを実現させるどこ
ろか、只々、敵の大軍から逃げまわっては、人のもとで虚し
く寄食するだけの自分を恥じつつ暮らしていた。そんなある
日、正裕は、川名実、井上秀克の二人と共に小宴を開いてい
たが、宴が始まってしばらくすると、酒が廻って感極まった
のか、急に涙をこぼしてしまった。それをみて実が言った。
「正裕様、一体、如何なされましたか」「あっ・・私とした
事が、不覚にも・・・。だが、私は、今の自分の境遇を口惜
しくも思うのだ」「私達で宜しければ、お悩みを打ち明けて
下さいませ。」「うむ、私は、剣道と幕府の興隆の為に戦っ
てきた。しかし、奸雄・ピサロの大軍の前には奈何ともしが
たく、義兄弟の高橋英明・岩佐英範とは別れ別れになったま
ま連絡もとれずじまい。私も、確固たる基盤も持たない為に
、剣道の為に逆賊共と戦う事もできず、只々、人の影に隠れ
て寄食するだけだ。そんな自分が情けなくてのう・・」と言
いつつ、クーラーのギンギンに利いた部屋の中で岩牡蠣のフ
ルコースに舌鼓をうつ正裕。

お名前: 趙翼   
そして同じく、岩牡蠣のフルコ
ースに舌鼓を打っていた秀克・実の両名も返す言葉が無かっ
た。しばらくの沈黙の後、正裕が再び口を開く。「だが、そ
れでも、神棚はそなた達二人を我が元に残してくれた。これ
は、神棚がまだ、私に大志を捨ててはならぬ、という意味を
込めて私に送る配剤だと信じている。だから、私は、その、
天の配剤に従い、義兄弟だけではなく、そなた達や他の私を
慕ってくれる者達を全てにおいて信頼したいと思う。どうか
、これからも、私の、いや、剣道の為に務めてくれ」そして
、両人に平伏する正裕。それに心、いや、汗打たれたのか、
身震いしつつ両名は言った「何と・・正裕様はそれ程までに
我等の事を・・・」「未熟者にござりますが、全身全霊を賭
して忠勤に勤めまする!!」

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、雄介を仲間に加えた英明一行は、正裕達と会う為に、さらに旅を
続け、やがて、陸前国の国人衆(大名に直接的には仕えぬ土豪の勢力)
の村にたどり着き、そこで宿をとる事になった。そして、そこで夕食を取っ
た時、給仕の番頭がこんな事を言った。「所で、お武家様方は、これから
どちらへいかれるのでございますか?」「伊達政宗殿のおわす岩出山城
に向かおうとしておるのじゃが、何か?」怪訝蒼に釜海が答えると、番頭
は驚いた顔をして言った「おやめ菜去れませ。あそこに向かうには白石
と言う城を経由しなければなりませぬが、つい、一ヶ月程前の事でしたが
、どこぞの落ち武者の集団と思われる五十人ばかりの賊党どもが、白石
城の守備隊の隙をついて城内になだれこんで、そのまま城をのっとって
しまいましてな。それ以後、その連中は、付近の山賊や海賊をどんどん
吸収し、また、伊達家の輸送隊を襲って食料を確保し、今では人数も三
千人ほどの、賊にしては大きな勢力を持つようになりましてな・・、今では
この付近の人々は、誰もがこの賊どもを恐れて、白石城を経由せずに、
少し遠くなりますが、岩代国の須賀川の港から船に乗って岩出山に向かう
のでございます。ですから、悪い事は言いませぬ。どうか、ここから白石に
向かうのはお辞め下さいませ」

お名前: 趙翼   
「ほう、そうなのか、でも、そのような賊ども
を、何故、伊達家の連中は放置しておるのじゃ?」「いえ、実はこの前も、
政宗様が御自ら大軍を率いて討伐に向かわれたのですが、その賊の大
将が以上に強い奴で、その男一人の為に政宗様は惨敗なされ、それ以後
は、伊達家も、その賊に頭が上がらないようになってしまったのでございま
す」「ほう、して、その大将の名前は?」「確か・・・、「岩佐英範」とかいう名
前ではなかったかと・・・」「何ッ!?」その番頭の言を聞くと、それまで黙っ
て話を聞いていた英明が急に口を開きだした。「番頭殿、今の話、本当で
ござるか?」「へ・・へえ。じ、じつはあの時の戦では、手前ども国人衆も、
伊達家の側に立って参戦したのでございますが、その時、手前ども、確か
に、その大将が自分の事をそう名乗っていたのを聞きましてん」「そうか」
「釜海殿、それにみんな、今の話、聞いたか」「はい」「きっと、その大将は
、わしの弟の英範の事に違いない」「そうか、無事でいてくれたか、英範」
英明が確信したのを見て、喜びの表情で釜海が言った。

お名前: 趙翼   
―続き―
そこで、英明達は、英範の軍と合流すべく、次の日の朝早く、宿を
発って、白石城へと向かった。そこの城門の近くまで来ると、英明
は、自分の弟子となった雄介を使者として、先に入城させ、自分達
がすでに城の近くまで辿りついている旨を報告させた。「・・・と、言
う訳で、どうか、英範様、わしの先生に一刻も早う再会してやって
下せえ」「何ッ!?すると、英明はすでにここに来ていると言うのだ
な!!・・・よし」するとこの英範、何を思ったか、いきなり自分の刀
を採りだして、家臣に馬を引くよう命じると、鬼のような形相で外に
出て行った。そして、城門の所にいる英明を見つけるや否や、大音
声で彼をどなりつつ、打ちかかっていった。「おのれ、今更、何の用
でここに現れたか!裏切り者・英明!?」「おお、英範、久しぶりだ
な、元気だったか?」「ほざくな!!」英範の刀が英明目掛けて討ち
下ろされるも、とっさに自分の剣を繰り出して、受け止める英明。
「わっ、お、おい!何をするんだ。こんな所でふざけるんじゃない!」
何を言いやがる!!藪園の誓いも忘れ、ピサロの元で贅沢三昧の
酒池肉林の毎日を送り、その次はピサロ様の軍勢を引き連れて俺
を捕えに来なすったのかYO!」「馬鹿な、そんな軍勢が、一体どこに
いると言うのだ」「そこにいるのは誰だ!?ピサロ軍の武将・釜海じゃ
ねえか!」するとこの釜海、あからさまに不快げな表情で、「何をいう
ぞ英範、この釜海、正裕殿に寝返る時に、そなたらと義兄弟になると
誓い、今やおまえの兄じゃぞ。無礼者め!!」「うるせえ、俺は認めて
ねえよ!!それに、あの山の向こうから来る軍勢は一体何なんだよ!」
「ああ、あれは伊達政宗の軍勢だろ」と、ボケる釜海に「馬鹿!!あの
旗印はピサロ軍のそれに決まってるだぼ!!」とつっこむ英範。
一体、どうなってしまうのか!?(垂木 勉ふうに)

お名前: 趙翼   
―続き―
「ならば、どうすればわしを信じてくれる?」と、英明が言うと、「あの
軍勢の大将の首を取って来い。そうすればお前を信じてもやろう」と
英範が言う。「よし、解った」と言って軍勢の方に向かう英明。そして
、軍勢の所に着くや、大声でこう叫んだ。「わしの名は高橋英明だ。
この軍勢の大将に用がある」すると、奥の方から、この軍勢の大将と
思わしき人物が出てきた。「おお、英明、ようやく追い着いたぞ」「・・
誰だ?」「わしは、侍所所司の蔡陽だ!!」「その蔡陽がここに何しに
来た!?」「お前は五つもの関所を破って代官を殺し、しかも我が甥
の秦棋まで斬ったと聞く、もう許せん。このわしが命を貰う」「無駄な
事を・・」・・・こうして、秦棋に続き、蔡陽もその首を刎ねられた。
大将が呆気無くやられると、その配下の兵どもは、上官の仇討ちを
する事もせず、一目散に逃げ出し、そして、誰もいなくなった。
さて、こちらは白石城。城に向かっていた軍勢が引き上げたと言う報
を聞くと、太守の英範以下、将兵一同、一斉に勝利の祝宴の準備を
始め出した。英明が入城すると、城の真中の広場では赤い絨毯の
敷かれた土台の上で、黒人の相撲取りが二人、相撲をしてる横で、
獅子舞いはまうわ、おくんちは練り回るわのお祭騒ぎ。さしもの英明
も呆気に取られていると、奥の方から英範が笑顔でこっちに向かって
言うよう、「いやあ、やっぱり俺の兄貴だねえ。すまねぇ、俺が悪かっ
た。どうか、許してくれ」「ははは、何、気にするな。我等は共に心を
許しあった仲、義兄弟ではないか。」と、釜海、横から口を挟む。「所
で、あそこにいる男は?」と、釜海が聞くと、「何だよ、もう忘れたのか
YO、英明の弟子の雄介だろ」「それじゃ、その後の男は?」と、釜海
が言い終わらぬ内に、その男の方を見て英明が驚嘆の声を上げた。
「御主は直輝ではないか!!」「おう、兄貴、覚えていたか!そうだよ
、あの、栄花直輝だよ」と英明が言うと、「栄花直輝?知らんな。英幸
なら知っておるが・・・」と呆ける釜海。

お名前: 趙翼   
―続き―
「そうですよ、一体、この人は何者なんですか?先生」と、釜海と一緒
に雄介も英明に向かってたずねる。「うむ、あれは、菊池義武が暗殺
されて間も無くの事であったか・・・。その直後、次の時代の覇権を握ろ
うと、伊達政宗と大崎義隆が会津で激戦を繰り広げたのじゃ。大崎軍
は勇戦したが、将兵の質・量ともに勝る伊達軍は次第に大崎軍への
包囲網を縮め、もはや大崎家滅亡も明日明後日の事と見ていたそんな
時、ひょっこり現れたのがこの栄花直輝よ。栄花直輝はたった一人、大
崎義隆に味方し、その武勇であっと言う間に戦の形成を五分五分に持ち
直させた剣豪よ」「そ、そんな強いお方だったんですかい!」「その後、わ
しらも大崎家側に掛けつけ、共に伊達軍と戦い、これを破ったのだが、そ
の時にわしらは皆、彼と意気投合してな、彼も正裕軍に加えるはずだった
のだ」「と、言いますと」「うむ、この戦の直後、蝦夷(北海道)の大名・蛎崎
家よりかなりの好条件でスカウトされてな、それで、『何時の日か、暇な身
分になった時、必ずその時は我等の元に駆けつける』という約束を残し、や
むなく蛎崎家に仕官していったのだ。」「そうだったんですか・・・、それは大
変でしたな」「はい、しかし、今やその蛎崎家も滅亡し、また、正裕様の義弟
・英範様がこの白石で兵を集めているという事を聞き、こうして掛けつけて来た
のでございます。私も、これからは、正裕様の為に粉骨砕身するつもりです」
「何はともあれ、そなたのような豪傑が駆けつけてくれたのじゃ、こんな嬉しい
事はない。我が殿(宮崎正裕)もこれを聞いたら多いに喜ぼうぞ」と、心の底か
ら直輝の帰参を喜んでいる英明の前で、(では、俺はどうよ??)と心の中で
英明に問い掛ける釜海。

お名前: 趙翼   
―続き―
「所で―」英明が英範に何か言おうとすると、英範、言わずとも解っている、という表情で、
「解っている。正裕兄者とどうやって連絡を取るか、と言う事だろう。俺達が調べた所、兄
者はこの近くにある伊達政宗の居城・岩出山城にいるとの事だが、英明兄者は伊達に盛
胤や義光を斬ってなく、伊達家の連中に顔を知られ過ぎているから行かない方が良い。」
「うむ」と静かに頷く英明。そして、英範の話は続く。「かと言って俺達も、使者には向いて
ねえしな」「うむ」「ま、ともかく今回の使者には、伊達の連中に顔を知られてなく、かつ、
敵地に赴いて冷静沈着に振舞える勇猛果敢なヤシがいい、と言う事さ」「して、誰か、その
心当たりの人物でもいるのか?」「ああ、一人いる。この前、俺達の城に仕官して来た大塚
という男だ。まだ若い男だが、剣技をさせれば、この城の連中の中では、俺や直輝でなけれ
ば誰もこいつには太刀打ち出来ねぇ程の椰子なんだ。こいつなら、使者の役も立派に果たせ
ると思うぜ」「ほう、そうなのか、ならば、その男に任せてみよう。すまぬが、その男をここに
呼んでくれ」そ―れから。「君が、大塚君か」「はい、大塚曹昴と申します。この夏、鍛えに
鍛え抜いたこの肉体と剣術で、必ずや密使の任務を果たして見せます」「うむ、君ならでき
るだろう、頼んだぞ、大塚君」と、こうして、大塚は岩出山の正裕の元へと飛んだ。
―岩出山、正裕の居館―
さて、その日、正裕は、その館の参禅室で座禅にふけっていたが、やがて、自分の背後に
ある何者かの気配に気づき、いきなり蕎麦に置いてあった刀を取り出すと、「何者!?」と
大声で叫んだ。すると、大塚が正裕の前に出て、「しっ、怪しい者ではございません。私は
、高橋英明様、岩佐英範様の両名より使わされた密使、大塚曹昴と申します。今日、ここに
参上致しましたは、これにある英明様のお手紙をお渡しし、そのお返事を聞きに参ったので
ございます」「何?英明からの手紙だと?見せてくれ」「はい」正裕は、大塚から受け取った
手紙をしばらく読んでいたが、やがて、涙を流して、驚嘆の声を発しつつこう言った。「そうか
、二人とも、生きて、生きていてくれたか・・・、よし、明日にでも、策を浸かってここを脱出し、
英明達の元へ落ち延びよう」

お名前: 趙翼   
「ふん、やはり、貴様は信用ならん!!政宗
殿にはうまい事をいいつつその実、義弟・英範のいる白石城に逃げ込んで兵備
を整え、我等と関東勢が戦って、双方傷ついた頃を見計らって、天下統一の軍
を興すつもりだろう!!もう許せぬ、政宗様の為にここで取られい!!」その時
、大塚が前に出て言った。「ここはお任せを。この程度の連中、私一人で十分」
すると景綱、激昂して、「な、何だと!?こ、ここにいる千数百もの手勢を、お前
のような掛けだしの小僧如きが、しかも、一人で相手だと!?うぅぬぬぅ!!
どこまで当家を舐めれば気がすむのだ!この正裕どもは・・ええぃ!!構わん!!
この小僧から討ち取っちゃって良いぞ!!」と、景綱の号令の元、千数百の軍勢
が一斉に大塚目掛け突進する。しかし、大塚、呼吸を整えると、剣を抜いてその
軍勢に真っ向から討ちかかり、まるで、奇人、もとい、鬼神の如く次から次へと
目にも写らぬ速さで軍兵を討ち取っていく。その、武勇を欲しい侭にするが如き
突進により、千数百の軍勢もやがて、隊伍を崩して総崩れとなり、遂には、残っ
たは、宗時と景綱だけとなった。当初、ぽか―んとしていた二将であったが、やが
て、このような小僧に自分の部隊を壊滅させられた宗時が憤怒の余り、「小僧
ォォォッ!!」と怒鳴りつつ討ちかかるも、大塚曹昴によって一刀の元にバラリズ
ン。事ここに至って、流石に景綱も、自身の形成不利を悟り、「逃げろ、どこまで
も遠くへ!!約束の地、レムリアへ」と訳の判らぬ捨て台詞を残して逃亡。以後
、行方不明に。

お名前: 趙翼   
―続き―
そこで正裕は、外出の許可を得るべく、早速、伊達政宗の居館へと向かった。
「おお、誰かと思えば正裕殿か、今日は一体何の用だ?」「はい、今日は、デス
ピサロに勝利を収める為の妙策を思いつきましたので、策を実行する許可を頂
きに参りました。」「何?必勝の策とな?」「はい、私が戦いの模様を見てみるに
、関東・東北の実力は今、正に伯仲し、その為に戦線は膠着し、何時、決着が
つくとも知れません」「うむ」「しかし、もしここで、尾張・美濃を治める大領主・織
田有楽が御味方について関東方の背後を衝けば東北方の勝利は間違い御座
いません」「むぅ、そんな事は解っておる。使者も度々出しておる。しかし、奴は
未だに承知してこんのじゃ。まぁ、考えてみれば、わしらが傷ついて一番得をす
るのは他ならぬあやつじゃからのう」「ならば、今度は私を使者に派遣して下さ
い」「・・・口説ける自信はあるのかね?」「はい」「よし、ならば君に頼もう。織田
有楽を説得してきてくれ」こうして、うまく政宗から外出許可を受け取った正裕達
は、早速、井上秀克・川名実・そして、大塚曹昴と共に、岩出山を出て白石城へ
向かった。所が、正裕達が城門を出ようとすると、裏門の方から、一軍が現れて
正裕達の行く手を阻んだ。「こら、何の真似じゃ!!我等はこれから、政宗様の
命を受けて、織田殿の元へ使者に赴くのじゃ。道をあけぬか!」秀克が一喝す
ると、その軍勢の大将格らしき武将が二人、現れた。「おお、貴方方は伊達家
の股肱の臣・片倉景綱殿と中野宗時殿ではござらんか。これは、一体・・」する
と、宗時が正裕を睨みつつ叫んだ。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、大塚曹昴の獅子奮迅の活躍により、窮地を脱した正裕は、そのまま
白石城へと入城した。城門を入りしばらく行くと、三人の男がこちらへと向か
って来る。正裕が人目、それを見ると、驚嘆の余り、つい、語を失ってしまった
。「兄者、ご無事でございましたか!!うっ、うっ・・・」「あ、兄貴―ッ!正裕兄
!!うっ、うっ・・・」「ひ、英明、英範・・・よ、よくぞ無事でいてくれた・・・うっ、う
うぅっ!!こ、これからは、また、一緒に剣道の為に・・・」「うっ、うっ・・・ま、正
裕どの、ようござったなぁ。ホントに、本当によくぞ、ご無事で・・・」と義兄弟の
ふりして涙ながらに話す釜海。更に、語を継いで「我等四兄弟、身はどこにあろ
うとも、心は常に一緒でした」その言葉に正裕「???」

その後、正裕は、義弟・英範の居城・白石城を拠点とし、再び、伊達政宗と反
デスピサロ同盟を締結し、共に、ピサロ軍と戦うも、ピサロの軍師・真田幸隆の
奇策の前に一敗地にまみれ、白石城は陥落、正裕軍の頼み(?)の武将・釜海
も、この乱戦のさなか、敵将・クルアーン、もとい、高覧に呆気無く討ち取られ、
再び、領土も城も持たない根無し草となった正裕達は、一先ず、尾張・美濃の
雄・織田有楽の元へと落ち延び、その庇護を受ける事となった。・・・そして、
月日は流れた。

お名前: 趙翼   
―続き―
時は流れた。この間、列島の勢力地図は大きく代った。かつて、日本最大の兵力を
持ち、その国力は関東の雄・デスピサロをも凌ぎ、誰もが、「次の日本の支配者は
この男」と確信されていた東北の雄・伊達政宗。しかし、その政宗も、ピサロ軍の
機略の前に一敗地に塗れ、それより、政宗とピサロの勢力差は逆転。勢いに乗じた
ピサロは伊達家の領土の各地に軍勢を投入し、数年にしてこれを平らげ、その勢力
はもはや揺るぎ無いものとなっていた。こうして、東日本を全て、その掌中に納め
たデスピサロ。そのピサロが次に狙うは西方であった。しかし、西方には、目障り
な人物が二人いた。一人は、瀬戸内という海運の要衝、そして、豊かな農業生産力
を持つ四国を統治し、その水軍の能力も決して侮れぬ大領主・長宗我部元親。
そして、今一人は、ピサロの為に終われ追われて、今、尾張美濃の雄・織田有楽の
元に身を寄せている宮崎正裕であった。宮崎正裕は今でこそ、領土を持たない存在
であったが、その剣道・人徳を慕う者数多く、決して無視できない存在だった。
―尾張国・名古屋城―
「のう、正裕殿、ピサロめはとうとう、伊達政宗を滅ぼしたそうじゃ。このままで
は近々、この尾張にも兵を向けてくるのではないかな」「その通り。奴の狙いはこ
の日本全ての掌握に有りますからな」と、城の庭園で、野点をしつつ、二人の人物
が話しに花を咲かせていた。この城の城主・織田有楽と、宮崎正裕である。さて、
二人がそうこうして、野点をしていると、突然、建物の方から、伝令の兵士が息せ
き切って駆け込んできた。「伝令ッ!!」「何じゃ、騒々しい。今、正裕殿と野点
をしてる最中じゃぞ!」「はっ、それが、伊勢の松坂で賊どもが叛乱を起こしまし
た!殿、何とぞ、ご対策を・・・ぐふっ」「おお、何と言う事じゃ。聞いたか、正
裕殿」「ZZZ・・・」・・・・・・・・・・・・・・ドカッ・・・・・・・・・
バキッ・・・と、こうして、正裕とその愉快な家臣達は賊征伐の為に松坂に向かい、
そして、呆気なく殲滅・鎮圧して帰ってきた。

お名前: 趙翼   
―続き―
松阪の賊を鎮圧し、意気揚揚と織田有楽の居城・名古屋城に凱旋した
正裕達は、早速、報告の為に有楽の元へ伺候した。「おお、正裕殿、
反乱を鎮圧して頂き、誠に感謝の仕様もない。」「いえ、有楽殿には
我等一同、常々、お世話になっております。そのご恩に報いるのは当
然の事でござる。」「所で、この度の戦の恩賞といっては何だが、君
に城を与えようと思うのじゃ。この、尾張の東の方の三河に、岡崎城
という城がある。今はまだ只の田舎城じゃが、君の力を以てすれば如
何ようにも大きくできるはず。どうじゃ、岡崎城主の任、引き受けて
頂けぬか。」「何と、私にそのような大任を・・・解りました。この
宮崎正裕、謹んでお受け致します」「うむ、うむ。立派な城になると
よいの〜」こうして、正裕達は、有楽の好意により、新天地・岡崎城
へと向かった。岡崎城は、それこそ、「城」とは名ばかりと言わんば
かりの、本当に何もない、する事と言ったら、剣道と草刈と鶏の世話
ぐらいしかない田舎村だった。しかし、正裕達がここに赴任してくる
一週間程前から怪奇現象が相次いだ。例えば、各家庭の井戸の底を見
てみると、黄龍が鎮座しているのが見えたり、天の雨雲から雨の変わ
りに飴やらバターが降ってきたり、鶏達が餌を食べていると、何処か
らとも無く鳳凰が舞い降りてきて、鶏達が自分の餌を差し出して、そ
の鳳凰に食べさせたり、と言う風な現象が。そして、それらは、正裕
達が赴任してくると、途端に止んだのである。人々はこの事から、今
度の城主には神仏の加護がある。きっと、末は将軍に・・と噂しあった。

お名前: 趙翼   
―続き―
正裕は、岡崎に到着してしばらくした後、皆が落ちついた頃を見図ると、
その家臣達を役割に従って分担した。即ち、岡崎の内政面には、文官の
井上秀克と川名実、それに、尾張に落延びた頃に仕官してきた志村武彦
をこれに宛てて、城下町の区画整備や未開地の農地開発を行わせ、正裕
と関東の雄介は外交担当に廻り、軍事部門には高橋英明を筆頭大将とし
て、岩佐英範と栄花直輝を配置して兵士達の訓練に当らせた。こうして
、正裕が適材適所を心がけて人材を配置した事、そして、各担当官が優
秀であった事もあって、正裕達が入城した時は殆ども抜けの空だった岡
崎城の金蔵も、たちまち、足の踏み場も無くなる程の大量の金銀物資で
うめつくされ、また、英明始め三大将の猛訓練により、正裕軍の戦力・
剣術力も日に日に充実していった。
そんなある日の事―
「ふああぁ〜、退屈よの〜」と、英範が、茶店の中でフルーツがてんこ
盛りされた皿の前で酒を飲みながらあぐらを掻いて非番を持て余してい
ると、そこに、英明がやって来た。「おお、英範、正裕兄者はどこに行
ったか知らぬか?」「うん?正裕兄者なら、さっき、直輝をつれて出か
けたぜ。何でも、今川氏真という偉い学者の所に行くとか言ってたっけ」
「何、あの今川先生の庵に・・そうか、わしも行きたかったな」「そう
言えば英明兄者はここ最近、やけに神妙に、勉強ばかりしてるな。心境
の変化?」「バカもん、これからの剣道家や武将には、学問も必要なの
だ。お前も、暇があったら、少しは勉強せい。兵法書か、「いちに会」
のHPでも読んでみろ」「げぇ〜っ!!文字面なんて、ちょっと見ただ
けで、頭が痛くなるわい。俺は、無学のままで充分だい」「あ〜あ、進
歩の無いやつ・・・それにしても正裕兄者。英範はともかく、わしを置
いていくとはひどいのぅ」

お名前: 趙翼   
―続き―
ここで、今川氏真や一条兼定といった、尾張美濃の大学者達について
語っておきたい。
当時、尾張・美濃といった中部地方は、街道の要衝として経済的に発達し、
農業生産力も日本有数クラスの、所謂、「膏油の地」であったにも関わらず、
戦乱の坩堝と化していた近畿地方から離れていた事もあって、
一種の政治的空白地帯となっていた為に、戦乱を逃れて多くの人士・文化人・学者が、避難する為にここに移住し、また、領主・織田有楽が非常な学問好きで、
これらの学者達を保護した事もあって、尾張国はその当時最高の水準を有する
一大学術地帯として繁栄していたのである。今川氏真と一条兼定は共にその地の
名士達の筆頭格としてその名は広く知れ渡り、彼らの開いている学問塾には、
地元の子弟は元より、その才名を聞いて、はるばる九州や東北・四国からやってきて
入門した生徒達で溢れ返って、その有様たるや、「今川邸の近くで石でも投げようものなら、そこの生徒に当る」という位であった。所で,今川氏真の門下には、
その一際優れた才能により、周りの者から「伏龍」「鳳雛」と称されて一目置かれた二
人の人物がいた・・・。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、話は戻って、ここは今川氏真の邸庵。宮崎正裕はこの地の
遺賢を求めるべく、かつはまた、これからの正裕軍の戦略方針に
ついて教えを請うべく、氏真の元を尋ねたのであった。「好好(
よしよし)、そなたが正裕殿でござるか。今日はこのようなあばら
屋に如何なるご用かの?」「はい、実は、今日は先生に、この尾
張・美濃の隠れた賢人と、これからの我々の方針についてお教え
頂きたく思い、参上つかまつりました。」「成る程、そういう事
でございましたか。実は私も、その事で折にふれて、貴方様の元
にお訪ねしようと思っていました。」そう言うと、氏真公は、そ
れまで微笑をたたえた温和な表情を、いきなり真剣な、ともすれ
ば怖いとも言えるような表情を浮かべて話を始めた。「貴方様に
は高橋英明殿、岩佐英範殿、そして栄花直輝殿のような一騎当千
の猛将には恵まれておじゃるようだが、惜しい事に、彼等の能力
を最大限に使いこなし、勝を千里の外に決しさせる人物がおらぬ
ようじゃな」「!!・・これは異な事を仰られます。わしは確かに
非力非才にございますが、わしの元には先ほど先生が仰られた三
将の他に、井上秀克・川名実・志村武彦といった博覧強記の英才
がございます。人なしとは言えませぬ。」「あなたはそうやって
すぐ、自分の部下をかばいなさる。私の見た所、彼等は、『ガチ
ンコ 剣道』にでもでれば確かに優秀な演技、もとい、演武を見
せてくれるでしょうしかし、それだけでは英明殿達を使いこなす
ことは出来ますまい。」「・・・・」「君臣の情としては美しゅ
うござるが、真の名君たるもの、それだけではなりませぬ」
「・・・先生の仰る通りでございます。しかし、彼等を動かしこ
なせる大賢者がいらっしゃるものでしょうか?私にはその賢者を
探しだす眼がありませぬ。先生!どうか、私にお教え下さい」
「案ずる必要はない。貴方の探している賢者は、確かにこの尾張
・美濃におる」

お名前: 趙翼   
―続き―
「おお、それは誠でございますか?」正裕がそう言うと、氏真公はおもむろ
に遠くを見つめるようにして言った。「そうよのう・・・伏龍か、はたまた
鳳雛か、この二人の内、いずれかでも得たならば・・・」「して、その伏龍
・鳳雛とはどなたの事にございますか?」「はっはっは、伏龍とは、竹中”
半兵衛”重治。そして、鳳雛とは、山本”勘助”こと晴幸。この二人は共に
、世の中に自分の名声が鳴り響く事を嫌って、その才を隠し能を包み、山野
に隠れて晴耕雨読の隠遁生活を送り、その為に、これまで、世の中に知られ
る事が無かったが、わしの見る所、この二人は当代きっての大天才であると
見る。」「して、お二方は今、どちらに?」「うむ、勘助は今、攝津国にお
るが、今一人の半兵衛は、美濃国の東、岩村城の近くにある、土岐坂村と言
う山村に庵を構えて、そこで生活しておる。正裕殿、ご自分の大業を是非と
も成し遂げたいと思えば、必ず、この半兵衛をお味方につけなされ。但し、
彼の志操は非常に堅く、金品などでつっても動かないでしょう。自ら、何度
でも半兵衛の元に赴き、誠意を見せる事です。そうすれば、彼も腰をあげる
じゃろう。」「おお、ありがとうございます。氏真先生。この正裕、必ずや
半兵衛殿をお味方につけ、天下万民と剣道を共に安んじてみせましょう」
「うむ、よしよし」。こうして正裕は、自分と剣道の行く末に、一筋の光明
を見出したる気持ちで、今川邸を後に、岡崎へと帰っていった。しかしその
時、城にはある知らせが舞い込んで、城内の者、皆血相を変えて大騒ぎを起
こしていた。

お名前: 趙翼   
―続き―
「おお、正裕様。一大事でございますぞ」といって、一人の男が血相を
変えて正裕の所に飛び込むように駆け込んできた。鳥居雄介である。
「どうしたのじゃ。ピサロの大軍が来ても平然としているそなたらしく
もない」「そ、それが、ピサロめが配下の大浦景政と呂翔に一万の大軍
を授けて、この岡崎に向けて出陣させ、この三河にはいった、と言う報
せが入ったのでござる!!」「何ッ!?そ、それは誠か?!」「残念な
がら本当でござる。今は柴田勝政を大将とする、我が吉田城の軍勢が必
死に防戦を試みておるが、恐らく、あと、ニ、三日が限度でござろう・・」
そう言って、一人の男が間に入ってきた。吉田城主・伊勢木秀綱である。
元は三河国の引篭りであったが、その才能を織田有楽に認められてこれに
登用され、この頃、三河国・吉田城の城主に赴任して、東国の諸侯に対する
警戒と城の内政に余念がなかった。正裕とは、同じ三河の城主と言う事もあ
って仲がよく、また、正裕もこの人物を有楽の配下で一番信頼に値すると見
て、しばしば相談事を持ちかけていた。
「おお、左様で御座るか。しかし、我が軍は兵士も少なく、また、篭城する
にもこの城は小さくて、大軍を防ぎきれない」「・・うむ、ここらへんで大
軍を迎え撃てる場所と言えば、吉田城の北にある、秋葉郷しかござるまい」
「ならば!」「うむ、正裕殿を中軍の大将、そして、英明殿を右翼軍の大将、
英範殿を左翼軍の大将、そして、秀克殿を総軍祭酒(軍師・参謀と同じ役名)
として、用意おさおさ怠り無い布陣をしき、秋葉郷でピサロ軍を迎え討つべき
でござろう!!」

お名前: 趙翼   
―続き―
一方、こちらはピサロ軍。大浦景政と呂翔の指揮の元、猛攻の末に吉田城
を陥落させ、否応無しにその士気は高まっていた。そんな折に、岡崎方面
に放っていた斥候が戻ってきた。「御大将!一大事にございます。岡崎城
の正裕軍が我々を迎え撃つべく、岡崎城を発って、秋葉の郷に向かいまし
た。
「何ッ、こしゃくな正裕め!!あくまでピサロ様に手向かうつもりか!で
、奴らの兵力はどの程度か?」「およそ一千五百でございます。あと、織
田有楽に従属している秋葉衆の兵力もあわせると一千八百程度になるかと
・・」「がっはっは!!たかがその程度の小勢で何ができるか!我が軍は
一万もの大軍。しかも、吉田城を攻め落としたばかりでその士気は盛んじ
ゃ。正裕どもが我等に抵抗すると言うなら、この勢いを以って奴等をも蹂
躙し、三河全土をピサロ様に献じるまでよ!」こうして、大浦・呂軍もま
た、これを撃破すべく、秋葉の郷に向かい、これと衝突した。この戦は当
初、兵力と士気にまさるピサロ軍が有利に展開し、正裕軍はこれに苦戦を
強いられたが、この戦における正裕軍の軍祭酒(軍師・参謀と同じ役回りを
持つ役職)・井上秀克のしかけた伏兵の計により、大浦景政と呂翔の本隊
とその他の部隊が分断され、その隙に一斉突撃をしかけた岩佐英範・栄花
直輝隊により、本隊は総崩れに陥り、景政は英範によって、呂翔は直輝に
よってそれぞれ呆気なく討ち果たされた。残った兵士達も、大将が討たれた
事を知ると、これ以上闘っても仕方ないとばかりに戦線を離脱し、やがて
、三河より完全撤退していった。正裕軍の勝利であった。
だが、この闘いは正裕軍側にも相当の犠牲をもたらし、正裕陣営に改めて
賢者の必要性を問い掛ける結果となった。凱旋の途上、秀克が正裕に言っ
た。「殿・・今回の戦は辛くも我等の勝利と相成りましたが、いつもいつ
もこのような有様ではこれから先、ピサロと渡り合うにおいて不安が拭え
ません。一刻も早く、天下を裁量できる大賢者を迎えいれる必要が御座い
ますな」「・・うむ。英明、英範、直輝は確かに強い。だが、祭酒として
国歌を切り盛りする天においてはいささか不安があるしのう・・」

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、秋葉の戦よりしばらくした後、正裕は義弟の英明と英範をつれて、
以前、この地の大学者・今川氏真の元を訪れた時に推挙された『伏龍』
こと、竹中半兵衛の庵を訪れていた。
が、しかし―。
一回目に訪れた時は、近所の人から、今、半兵衛は旅に出ており、何時
帰ってくるか解らない、という旨を聞いて已む無く帰り、二回目に訪れ
た時は、ようやくお目にかかれたと思いきや、そこにいたのは半兵衛の
弟・竹中茂眉人と言う人物で、この弟よりこれまた、半兵衛が旅に出て
いて不在であり、何時戻って来るか解らない事を聞いて、またも、正裕
は半兵衛に合う事が出来なかった。二度まで訪ねて尚、半兵衛に会えな
かった事は、正裕にもさすがに応えたようで、ある時、岡崎の外交担当
官・関東の雄介にふと、こう漏らした。「・・のう、わしは、ついに半
兵衛殿に会えぬ運命なのかも知れぬ。」「ほえ、それはどうしてで?」
「考えても見よ、わしはこれまで、半兵衛殿に天下収斂の策を教えて頂
くべく、二度まで先生の庵に足を運んだ。しかし、二度とも、お話を聞
くどころか、会う事すら出来なかったのじゃ。諦めよという事かのう」
「そんな殿様、こんな所で諦めてどうされます。二度で駄目なら、三度
でも四度でも足を運べばよかですと。その程度の事、これまでのご苦労
に比べりゃ、カッパ巻きみたいなものでげしょ」「うむ、そうだったな
。わしの望は室町幕府の最高と剣道の中興。その為にもここでめげる訳
にはいかん。よし、そなたの言う通り、何度でんも赴くYO!」

お名前: 趙翼   
―続き―
それからしばらくして、正裕の居城・岡崎城―。
「英明、英範はおるか?」「はっ、ここに」「ふぁーい、いますよ〜」と
正裕の呼び声に高橋英明・岩佐英範の両人が答える。「こらっ、英範。殿
に対して何と言う気の抜けた返事だ」「そうは言っても、気の抜けた返事
の一つもしたくなりますよ。どうせまたあの田舎学者の元に行くんでしょ」
「英範、少し口を慎め。大賢人に向かって田舎者とは無礼過ぎるぞ」と、
正裕が窘めると「だってさ、あの半兵衛が一体何をしたと言うんです。山
村の庵に閉じこもって日がな一日、書物を読んで、時々、気の向いた時に
ふらふらどこかへ出かけるだけざんしょ。そんな男の為に兄者自ら三回も
足を運んだとあっちゃ、領民の手前、かっこ悪過ぎですよ!」「黙れ!!
・・もう、よい。今回はお前は着いてくるな。そんな態度のままで付いて
来られては折角の私の誠意も半兵衛殿に疑われてしまう!」「げ、げえっ
!!そりゃ無いよ兄者。解りましたよ、解りました。大人しくしているか
ら、俺もお供させて下さいよ。」「さっきのような態度を半兵衛殿の前で
出さないと誓えるか?」「へいへい」
こうして正裕は英明・英範の両名を供として、三度、竹中半兵衛の庵を訪
れた。庵に着いて、玄関の処に行くと、半兵衛の弟の茂眉人が掃除を行っ
ていたが、正裕達の姿を見ると、近づいて声をかけた。「これは岡崎の宮
崎様。丁度善い時にお越しになられました」「おお、それでは先生は!!」
「はい、兄は昨晩、旅から戻って参られ、今、昼寝の最中です。早速、起
こして参りましょう」「いえ、それには及びません。ここで先生がお起き
になられるまで待ちたく思います」「し、しかし、それでは・・」「いえ
、こちらの方から勝手に押し掛けて来たのです。お気使い下さいますな」
「そうですか・・では、こんな処でお待ち頂くのも失礼ですので、どうぞ
、家の中にお入り下さいませ」「それでは、お言葉に甘えて・・」
そう言うと正裕は英明達を残して、家之中に入っていった。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、正裕が家の中に入って待つ事しばらくすると、家の奥の伏龍の寝室
から俄かに香しい芳香と共にまばゆい光と金粉が立ちこめてきた。正裕が
何かと思い、柱に隠れてその様子を覗くと、一人の、この上無く尊い顔立
ちをした貴人が寝台から起き上がり、その上に腰掛けていたのである。そ
のお顔を物に例えるや、まるで、真珠のような透き通った白い肌に、天界
の紅を差したような薄紅色の美しい、皺一つ無い唇、端正の取れた鼻に、
目はハムスターのような可愛らしい目の形をしているが、その瞳の輝きは
龍や鳳凰の様、そして、全身からあふれ出るような神秘的にして高貴な雰
囲気に、まるで神仙のような気品を放っていた。
さて、この人物はしばらく寝台に座って虚空を見つめていたが、やがて、
自分を見つめる視線に気づくと、そばに置いてあった呼び鈴をならして人
を呼んだ。やがて、弟の茂眉人がやって来た。「兄上、如何なさいました?」
「誰かお客人が来てるのかね?」「はい、岡崎の宮崎様が」「何?何故私を起
こさなかった?」「そ、それが・・宮崎様が、兄上が起きられるまでお待ちに
なると仰られる物ですから・・」「そうか・・わかった。ひとまず、客間にお
通ししてくれ」「はい」
さて、正裕が客間で待っていると、やがて、綸巾・羽扇を身にまとい、体には
鶴ショウを羽織った、神仙と見まごうばかりの高貴な人物が奥から現れ、
正裕に一礼をして言った。「お初にお目に掛かります。過日においては二度
もこの草庵に足をお運び頂くも、不在の為に無礼を働き、本日はまた、昼寝
の非礼を働いた事、どうか、お許し下さい。」「いえ、こちらの方から勝手に押
し掛けましたのに、そのように仰られますと却って心苦しゅうございます。御気
になさらないで下さいませ」

お名前: 趙翼   
―続き―
「このようなあばら屋に三度も足をお運び下さいました事、誠に恐縮至極に
存じ上げます。また、この事で貴方様がこの国の平和への思いの強さもよ
く判りました。しかし、私は若輩浅学の身の、山村の一農夫に過ぎません。
貴方様のご期待には添えないかと思います。」「ご謙遜なされますな。貴方
様の御英名は今川様や一条様からもお伺い致しております。どうか私にこ
の乱れた天下に平安をもたらし、再び、元の平和な室町幕府を再建する術
をご教授下され」「・・平和な室町幕府・・・ですか。・・・残念ですが、宮崎様、
今、天下の趨勢を見るに、室町幕府は既に実力・徳望共に無く、もはや今の
体制では平和な世を作る事は無理でしょう」半兵衛がそう言うと、正裕は肩
を落し、落胆の表情を浮かべて言った。「左様でございますか。私は今に至
るまで、天下の平和と剣道の中興の為に戦って参りました。しかし、力が無
いばかりに、ピサロめに敗れ、未だに戦乱の収束をもたらす事はできず、いよ
いよ世の中が乱れ、室町幕府が衰えて行くのを憂え、悲しむばかりでござい
ます。・・・先生、私如きの力では、どうにもできないのでしょうか?」それを聞
いた半兵衛、しばらく無言で窓の外を眺めていたが、やがて、こう言った。「宮
崎様。貴方様のお力でもこの天下に平和をもたらす事はできます。」「と、申し
ますと・・」「しばらくお待ち下さい。お店したいものがございます。」そう言うと
半兵衛は、おくの書棚から一つのおおきな巻物を持ってきて、それを正裕の前
で持ってきて見せた。「宮崎様、これをご覧下さい。」「これは・・」「これは、この
列島の地図にござる。今、東日本一帯においてはピサロめが将軍を幽閉して、
三十万もの兵を擁し、厳刑を基とした法制を定め、各地に関所を設け、また、
塩釜・秋田・品川・諏訪といった自治都市を支配下に置き、蝦夷、佐渡・尾浦
といった港を設けてルソン・朝鮮・明といった諸外国と交易を行い、その、並ぶ
者無き経済力と軍事力をもって天下に号令を発しております。これは軽々しく
攻めるべきではございません。また、西の方・四国に目を向けますと、その地
の雄と呼ぶべき長宗我部家が、瀬戸内海一帯を網羅する強力な水軍と、実り
豊かな四国の生産力を地盤とし、父子三代に渡ってよくこれを統治し、また、そ
の地の兵士や民衆も良くこれを慕い、その政権基盤は揺るぎ無い物となって
います。これも、やはり討つべきではなく、むしろ味方に引き入れて、共にピサ
ロに当たるべきでございます。」

お名前: 趙翼   
―続き―
更に半兵衛は話を続ける。」「では、宮崎様は何処の地を取るべき
か。もはや近畿近辺はどこにいってもデスピサロか長宗我部の勢力に当たって
しまいます。即ち、中原にはもはや拠る所は御座いません。」「・・・」「ですから、
宮崎様、貴方は中原ではなく、その外をお取り成され、つまり、九州と中国を、
です」「九州と、中国・・・ですか?」「左様、このニ地方はいずれも『天府の地』
と形容されるほど豊かな地でありますが、近年はこのニ地方のいずれにも暗君
が立ち、それが為に民はその悪政に困窮しきっています。ですから、貴方様が
大義の旗を掲げて行く先々で窮民を救うようにすれば、この両地方はすんなりと
貴方様を国主に迎え入れるでしょう。そうして、しばらく力を蓄えておき、いずれ、
機が熟した頃を見計らって、九州からは水路軍を出し、中国からは上将軍に命
じて大軍を与えて陸路軍を編成させてニ方面よりこれを討てば、剣道の中興も
また可能かと思われます」「おお、見事な策にございます」「左様、これを『三国
分立の計』と申します。」「今、今ようやく、私の前に道が開けた思いです。先生
、貴方のお陰で私は自分の成すべき天命を知りえました。どうか、どうか、これ
からも私の蕎麦で色々と、この不明な正裕にご教授下さい」すると、半兵衛は
首を横に振って、「いえ、今のは私のような農夫に宮崎様が自ら『三顧の礼』を
ふんで下さいました事への返礼に御座います。私にはやはり、今のような農夫
の暮らしが性に合っています。どうか、仕官の事に衝いてはご勘弁を・・」半兵衛
がそう言うと、正裕はいきなり土下座してその額を床に押し当ててこう言った「先
生、今、先生は私に天下を平和に導く妙策をお授け下さいました。しかし、この
正裕だけではその神計の十分の一も実現させえないでしょう。先生、この正裕の
為に、いや、天下の民のためにも、今、先生のお力が必要なのです。どうか、先
生、この乱れた天下を平和に導くために、どうか、この正裕めにお力添え下さい。」
「・・・・殿様のお気持ちは判りました。大して力の無い私ですが、ともに軍事に努め
ましょう」「おお、左様でございますか・・先生、有難うございます」
こうして、「伏龍」こと竹中半兵衛重治は、正裕の三顧の礼に応じ、その軍祭酒と
なった。眠れる龍が、ついに目覚めたのである。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、「三顧の礼」をもって竹中半兵衛を得た正裕は、それからと言うもの、
何につけても半兵衛をお側につけて、常にぴたりと寄り添って、まるで恋人
同士のようであった。会議等の公の場では元より、外出する時にも同じ馬に
乗せ、食事する時も二人並んでこれを共にし、しまいには風呂やベッドまで
一緒にするという、呆れて物も言えぬ、もとい、言葉では語り尽くせぬ程の
熱の入れようであった。
このような呆けた、いやいや、アツアツの状況が続くと、当然の事ながら、
正裕の古参の家臣の中からはこの、正裕と半兵衛の関係に嫉妬、いや、
不満を持つものも出てくるようになった。高橋英〇・岩佐〇範のような武官
達や、井上〇克といった文官達など、要は正裕配下の最古参の者達である。
岡崎城・城下の集会所―
ここの所、この集会所は、昼は町人の憩いの場、そして、夜は前述の者達の
愚痴の言い合いの場となっていた。そして、こよいも正裕陣営の主だった者達
が集まっては愚痴話に華を咲かせていた。
「なあ、ここの所、どうにも気が抜けちまうんだよな、あの、半兵衛が来てからと
いうものよ〜」と、英範が言うと、それに続いて秀克も、「確かに、半兵衛殿が
来られてからと言うもの、殿はなにかにつけ、半兵衛殿を優遇しておられるよう
だしのう・・・」すると、それに続いて英明も、「うむ、わしもそう思う。最近の殿は
まるで、恋の熱病にでもかかったかの如く、何かにつけて半兵衛殿を寵愛なさ
っておられる。しかし、あまりその状況が続けば、古くから殿の為に働いている
家臣たちも面白くなくなるのも無理からぬしのう」「そうだそうだ、あんな田舎の
インテリより、俺達の方がよっぽど兄者の為に活躍してるのによ〜、それなのに
この有様じゃ、愚痴も言いたくなる物だ・・・って、おい直輝、お前さっきから何を
ぼんやりしてんだよ」すると、直輝曰く、「はい、夜空があまり美しいもので」「ふ
ぅ、夜空なんか見てねぇで、お前もなんか言ってやれよ」「はぁ、何をでございま
しょう?」「はぁ・・これだ。全く、お前は長生きするぜ」「はい、有難うございます」
「あぁ、やめだやめだ、何時までもこんな所で愚痴ってても始まらねぇ、おい秀克
、お前、その弁舌で兄者に忠告しろよ」「えっ・・・いや・・そこはやはり義兄弟の
出番でしょう」「やれやれ、しょうがねぇ、兄者、俺達が言ってくるか」「うむ、行こう」

お名前: 趙翼   
―続き―
こうして、翌朝、英明と英範は正裕の元に行って、古参者を代表して不満を、いや
、意見を上申したが、この時、正裕の出した返答が有名な、「孤の半兵衛有るは
、猶、鏃の竹あるが如し。願わくば諸公、復た言う勿れ(私に半兵衛がいるのは、
ちょうど、矢のやじりに竹の棒が巻きついて支えているような物。だからお願いだ
から皆、今後、そのような事は言わないでくれ)」である。それからは、家臣達も
表立っては愚痴を言わなくなったが、英範なんかは、歩いてる時に半兵衛とすれ
ちがったりすると、周りに小声で「おい、竹が来たぜ」と茶化していたという。
しかし、この後、半兵衛はその縦横無尽の知略の冴えを正裕の志をよく助けた
ので、後世の人はこれを称えて、正裕と半兵衛の交わりを「竹鏃の交」と称した。

お名前: 趙翼   
―続き―
竹中半兵衛が宮崎正裕の軍師となったと言う報せは、やがて江戸のデスピサロ
の元にも届けられた。「密偵からの報告によると、竹中半兵衛とやらが、正裕めの
軍師となったらしい。誰か、彼を知っている者はおるか?」と、ピサロが言うと、奥
の席の方から声を掛けた人物があった。「殿、それがしは半兵衛の事をいささか
存じ上げております」ピサロ軍の参謀の一人、戯士才である。「おう、戯士才か、
して、半兵衛とは何者なのじゃ?」「はい、彼の家はもともと、美濃の豪族・斎藤
義龍とは懇意の間柄で、この義龍が美濃に拠って「濃尾皇帝」を自称して叛乱
軍政府を結成した時、それまで、在野の一ヒッキーであった半兵衛の父親も義
龍に召され、岩村城の城主に任命され、半兵衛もまた父に従って岩村城に趣き
、そこで、何不自由ない生活が半年程続きました。しかし、やがて、室町幕府か
ら正式の任命書をもって、後に織田有楽の配下となる、日根野弘就という人物
が赴任してきて、岩村城の城主の座を巡って半兵衛の父と口論となり、やがて、
それは戦へと発展いたしました。この戦で半兵衛の父は弘就に敗れて、そのま
ま蒸発し、半兵衛もまた幼い弟と共に逃れ、それから後、岩村を離れた山村に
庵を設けて引籠り生活を送っていましたが、彼が十五歳になった時、一念発起
して、大学者・今川氏真の門を叩いて学問に励み、今や、氏真門下の中でも
彼に叶う者は殆どいない程の大秀才であると言う事です」「・・・それほどか。」
と、ピサロが感慨に耽りながら言うと、家臣席の方から、また一人の男が名乗り
をあげて言った。「皆の衆!一体何をそこまで半兵衛、半兵衛と恐れられるか!?
正裕の軍師と言うても、まだ、一回も戦を経験した事も無い田舎の書生ではない
か!そんな奴の采配など、このわしの力を以て、打ち砕いて見せましょうぞ

お名前: 趙翼   
―続き―
「おお、康政か。御主、やけに強気な事を言うが、半兵衛を滅ぼす自信がある
ようだな」
榊原康政―読者諸賢の中にはこの武将の名前を覚えている者もいるだろう。
そう、かつて、高橋英明が正裕の元に赴くべく、東北に向かっていた時、これ
を阻んで彼と互角の一騎討ちを演じた猛将で、ピサロ軍の中でも一、二を争う
程の武勇・胆略の持ち主としてその名は四海に轟いていた。
「もし、お許し頂けるなら、それがし、一軍を率いて岡崎に向かい、正裕軍を討
ち破り、正裕と半兵衛を生け捕って参る所存!!殿、どうかご命令を!」
その時、更に一人の男が進み出て言うに、「殿、お待ち下さい。今、康政どの
に従って岡崎に攻め入れば、必ずや我が軍は惨敗を免れますまい」「な、何
だと!?って、お前は誰?」「私の聞き及ぶ所、半兵衛と言う男、上は天文に
精通し、下は地理民情を聡り、孫子・呉子の兵理を常に肝に銘じ、六韜三略
を諳んじ、並みの人物ではございません」「あっ、思い出したぞ!!お前は、
いつぞや、関所破りをした英明を召し捕ろうとした時に、何だかんだと難癖つ
けて結局、英明を逃がした奴だな!また、わしの邪魔をするか!?って言うか
お前、誰?」「殿、我が軍はまだ、東北を占領したばかりでその地方の人心
をつかみきってはおりませぬ。このような時に徒に大軍を発して、民衆に負担
を掛ければ、折角支配下に置いた東北の治世も危うい者と成りかねませぬ」
「ぬぅ〜っ!こ、こいつ!!」と、このように会議は一時、騒乱の体を見せかけ
たが、結局、ピサロの、「半兵衛の才が大ならば、正裕の勢力が小である時に
これを討つ」と言う方針により、康政を総大将とした、五万の岡崎討伐軍が編
成され、岡崎に差し向けられる事になった。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、この岡崎討伐軍発すの報は、間も無く、三河吉田城主・伊勢木秀綱により
岡崎の正裕の元に届けられた。
「何!?デスピサロめが遂に、この岡崎に討伐軍を差し向けて来たと申すか!」
「さよう、榊原康政を大将、李典・于禁を副将とし、その数は実に五万という大軍
だそうじゃ。正裕殿、早めに対策を練らねばのう」「うむ、ともかく、まずは英明と
英範を呼んできて下され。とりあえず、兵士達の訓練に抜かりが無いように念を
押しておきましょう♪」「それでは、お二人を呼んで参る♪」しばらくして、英明・
英範の両名が正裕の元へやって来た。「お呼びでござるか?」「おお、御前達
大変な事になった。ピサロが遂に榊原康政を総大将とした討伐軍をこの岡崎に
差し向けてきたのじゃ。御主達も早々に応戦の準備をしてくれ!」「アウ!」そ
れから正裕は、左右の侍臣に命じて、半兵衛を呼んで来させた。
「殿、お呼びで御座いますか?」「おお、半兵衛、実はかくかくしかじか、という
訳でな・・」すると半兵衛、穏やかな顔を浮かべつつ、「関東の軍勢の事ならご
心配は無用です。・・・しかし、問題は内部にあります。・・殿、これから諸将を
呼び集めて評定を開きたいと思いますが、その時、殿のお持ちになっている剣
と印綬をお貸し頂けませんか?」「う・・うむ、それは良いが、そなた、そのような
物をもって一体どうするつもりじゃ??」「まあ、ご覧下さいませ」そう言うと半兵
衛は左右の近臣達に、諸将を会議場に呼び集めるよう促した。

お名前: 趙翼   
―岡崎城・会議場―
「私がこの度、軍祭酒としてこの岡崎軍の指揮を任せられる竹中半兵衛である。
皆も存じておると思うが、榊原康政を総大将とした五万の大軍がこの岡崎に向か
っている。勝つも負けるも諸将の奮迅の働きに掛かっていると思われい。」「はは
っ」「うむ、それでは、今回の軍略について私が説明しよう。まず、戦いの地はここ
より少し離れた、秋葉の郷とし、諸部隊はそこに布陣してもらう。では、まず、高橋
英明殿」「・・ははっ」「貴殿はこの秋葉の郷の30マイル北東、安城の森に部隊と
共に潜め。そして、敵の後方部隊が森に差し掛かったらそこで一斉に火を放て」
「・・ははっ」「続いて、岩佐英範殿」「ふぁ〜い」「貴殿は安城の森の80マイル北西
にある予柑山に部隊と共に潜み、敵の先鋒隊はやり過ごし、森の方角から火の手
があがったのを確認したら、一斉にてきの部隊に向かい、火を放て」「ふあ〜い」
「そして、栄花直輝と殿はそれぞれの部隊と共に康政の部隊と正面から突っ込ん
で頂きたい。そして、少し戦ったら機を見計らってわざと退却し、適当な所で再び
追撃してきた康政の軍と戦い、そしてまたわざと退却、これを繰り返して、敵の大
軍を安城の森におびき寄せて頂きます。」「うむ、解った。必ず、敵をおびき寄せよ
う」「さて、これで私からの作戦は以上だが・・・」すると、半兵衛がまだ言い終わら
ない内に、それまで、黙っていた英範が、まるで、堰を切ったかの如く、激しい勢い
で半兵衛に迫った。「祭酒!!あんたは一体、どこで敵と戦うんじゃ!?」「・・・私
か、私はこの城に残り、同じく城に残る井上秀克、川名実殿と一緒に、ビールでも
飲んで皆の吉報を待つ」すると英範、呆けたような顔をしつつ、「ほへ〜」と気の抜
けた返事とも返音とも言えないセリフを発し、席に戻った。

お名前: 趙翼   
―続き―
いろいろと異見が飛び交い、会議はごたごたの態を擁したが、結局、誰も
半兵衛以上のすぐれた作戦案を出せなかった事、そひて、半兵衛が正裕か
ら剣と印綬を授けられ、全権を委譲されている、と言う事により、「とり
あえず、今回は」と言う事で、皆、半兵衛の指示通りの部署についた。即
ち、正裕と直輝は敵をおびき寄せるべく秋葉の郷の平地に陣取り、英明は
安城の森の中に、英範は予柑山に、そして、半兵衛と井上秀克と川名実は
ビールと料理が用意された宴会場に、である。
一方、その頃、榊原康政率いる討伐軍は既に、伊勢木秀綱の吉田城を陥落
させ、意気揚々と正裕のいる岡崎城へと進軍していた。
そして、軍勢が秋葉に辿り着いた頃、康政の元に、あらかじめ放っておいた
斥候が戻ってきた。「申し上げます。岡崎の正裕軍、この先の秋葉の郷で我
々を待ち構えている模様。」「おお、出てきおったか正裕め!して、敵の兵
力は!?」「は・・およそ、一千五百程度かと・・」「わっはっは!!その
程度の小勢で、一体何が出来る。所詮、田舎学者の采配等この程度よ!者ど
も!よいか!!この先で待ち構えている正裕供を一騎に蹴散らし、その勢い
で岡崎にまで迫るぞ!行けい!!」
一方、秋葉の郷に陣取っていた正裕と直輝の部隊も、康政軍が近づいてきた
という報を受け、総員に命じて突撃させた。が、いかんせん多勢に無勢。時
間が経つにつれて、じわじわと押されていった。

お名前: 趙翼   
―続き―
「殿、そろそろこの辺でよいかと思います。引き上げの合図を」
「よし、引き上げだ!」と、正裕が総員に引き上げを命じると、
それまで奮戦していた正裕軍は急に後方へと引き上げ始めた。
それを見た康政は、「見よ、我等に押されて、敵は尻尾を巻いて
逃げていくわ!者ども!この機を逃さず、この敵軍を殲滅し、岡
崎を席捲するのじゃ」と、すかさず全軍に追撃を命じた。しかし、
正裕軍の撤退速度は速くて、なかなか追いつけず、彼等を追って
安城の森に入った時には、すでに夜の闇が当り一面を覆い、乾い
た風が気持ち悪い位に吹きすさんでいた。そして、後方部隊が森
の中に刺しかかった時、森の中から一斉に火の手が上がったので
ある。忽ち、恐慌状態に陥り、統制も糞も無い烏合の衆に陥る後
方軍。そこに、それまで付近に潜んでいた英明の部隊が襲いかか
ると、この軍勢はろくな抵抗もせぬまま、只々、討ち取られ、蹴
散らされ、壊滅するに巻かせるのみであった。その頃、先頭に立
って追撃していた康政とその軍勢は、すでに安城の森を抜けて予
柑山にさしかかり、そこで陣を張って副将の李典、于禁と共に宴
を催していたが、伝令から安城の森にて後方軍が壊滅した報を聞
くと、慌てて救援の為に兵を差し向ける様命令を発したその時、
この予柑山でも安城の場合と同じ様にあっちこっちから火の手が
あがり、さらに、落石によって兵達が次々と潰され、やっとの事
で予柑山から脱出すると、今度は英範の率いる南蛮兵部隊の猛攻
にさらされ、ここでも康政の軍勢は甚大な損害を受けたのである。
この闘いにより、康政の率いる岡崎討伐軍は実に、半数以上もの兵
を失い、辛うじて敵の追手を振り切った彼は、生き残った僅かな手勢
を引き連れ、ほうぼうの態で関東に退却していったのである。
半兵衛の知略に従った正裕軍の大勝利であった。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、作戦を終えて、味方が勝利を収めた事を確認した高橋英明は、
兵を引き連れて岡崎に帰還する為に道を急いでいた。すると、予柑
山の方から一人の、見覚えのある武将が逃げてくるのに出くわした。
榊原康政の副将・李典である。
「ひ、ひいっ、お、御前はひ、英明!!」狼狽する李典を見ると、
英明は冷静な口調で、「デスピサロ殿の配下・李典殿とお見受け致す。
我こそは宮崎正裕の配下・高橋英明。李典殿、その一本頂戴致す。」
と言うと、英明はその剛剣を李典めがけて真っ向から振り落とす。
李典、「ひいいいぃっ」と狼狽の声を上げてとっさに目を瞑る。と、
次の瞬間、信じられぬ事が起こった。何と、李典めがけて振り落とされ
た剣が、一人の雑兵の槍に受けとめられていたのだ。
「むうっ、こ、こやつ、我が剣を受けとめるとは!」と、英明が驚いて
いると、その言葉に我に返った李典も、「な、何と、我が軍にこのよう
な大力な者がおったとは!」と驚きを隠せない様子。それを見て、雑兵
は冷徹な笑みを浮かべて言った。「これは申し送れました。私は雑兵と
いっても只の雑兵ではなく、胡彪軍の雑兵でござる。」それを聞くと李
典、なおも驚きて、「な、何っ!?こ、胡彪軍じゃと!!こ・・胡彪軍
といえば、只の雑兵でも普通の特殊部隊百人に勝る武量を持つという、
ピサロ様直轄の、正に、ピサロ軍の最強部隊。そ・・その胡彪軍の兵士
が何故、ここに?」「ふ・・李典殿、貴方はまだ、この関東にとっては
必要な人物。それ故、我が将より、貴方に万が一の事が起こった時には
出ていって守るようにと命をうけ、この軍勢に忍び込んでいたのです。
「お、おう、さようか。ならば、この場はお主に甘えて遠慮無く逃げさ
せてもらうぞ!」「待ていっ!!」と逃げる李典を追いかけようとする
英明。しかし、その行く手を雑兵が遮る。「おっと、行かせる訳にはい
きませんな。さあ、貴方の相手はこの私だ。しばらくお付き合い頂こう
か」「む・・むうっ」

お名前: 趙翼   
―続き―
その後、しばらく英明とその雑兵は打ち合っていたが、英明の剣はどれも、この
雑兵に見切られ、中々決着が着かないでいた。すると、この雑兵、にわかに嘲り
の笑みをこぼしつつ、「ふっ、これが世に名高い英明殿の剣か。もう少しやるもの
と思っていたが、どうやら私の見当違いだったようだ。ならば、そろそろその一本
をお取りしようかな」すると英明は、全く動揺の気配も見せず、静かにこう言い放
った。「うぬぼれるでない。確かに御主の武量は百兵に匹敵するであろう。しかし、
その程度の腕前では、到底、このわしを倒す事はできぬ。どれ、力を一分程出す
とするか」「・・な、何?」と、雑兵が言い終わらぬ内に、これまでとは全く違った英
明の剛剣が繰り出される。雑兵はそれを受け止める事もできず、只、真っ向から
打ちのめされるだけであった。「・・な、何だ。は、速い、そ、そして強い・・・ゴブァッ
!!」そして、態勢を崩して倒れる雑兵の体を受け止め、英明が言う。「一本は取
らぬ。御前にはまだ、「胡彪軍」とやらについて聞きたい事があるのでな」そう言う
と、英明は、その雑兵を抱えて悠々と城の方に帰って行った。その時、遠くの物陰
に隠れて、李典が一部始終を見ていたが、英明の余りの強さに全身を震わせて、
「ぞ、雑兵とはいえ、「胡彪軍」の者をああも軽々と・・・英明っ!あやつは鬼神かっ
!?」

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、こちらは関東の雄介。火計によってピサロ軍が壊滅したのを
見て、今こそ手柄を立てる絶好の機会と、戦場をチョロチョロとう
とうろついていた。やがて、一人の大柄な敵兵の姿を見て、そいつ
をつけていたが、追跡している内に戦場から大きく離れた雑木林へと
入ってきていた。林に入ってしばらくいくと、その男は急に立ち止まり、後ろに
いた雄介に向かって言った。「こんな所まで追って来るとは・・・馬鹿な男よ、途中で諦
めておれば助かったものを。まあよい、ならば、この「胡彪軍」部隊長・石勇が貴様を地
獄に送ってやろう。」「てぇ〜い!!」と、そんな事もお構いなく、雄介は打ちかかって行
ったが、石勇はそれに驚いた表情一つ見せず、余裕の面持ちで雄介の剣を振り落すと、
抱き着こうとする雄介の肩の関節の秘孔をついて肩の動きをふうじて、そのまま足を払
い、地面に倒して組み伏せた。「ふん、どうやら、御前の腕ではまだ、このわしには叶わ
ないようだな。それに、お前は、わしの捜しているメーダではないしな・・おい、メーダは
どこだ?」「メダ?」「『メーダ』だ。この軍に参戦しているという噂を聞いて、我が将の命
を受けてこの軍勢に潜入していたのだが、・・・どうやら、ガセネタだったようだな。・・・
もう、ここに用はない。さらばだ。」そういうとその石勇は、肩の動きを封じられ、真っ裸
で亀甲縛りされている雄介をそこに残して、悠然とその場を去った。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、「胡彪軍」の登場で、一悶着あったものの、半兵衛の奇策によって、戦は
正裕軍の大勝利に終わった。僅か三千程度の兵力をもって、五万もの大軍を
打ち破った事に、兵士達はもちろん、英明や英範・直輝達も今だ確信が持てず
にいた。英明達はしばらく、無言のまま、火攻めによって灰と化した安城の森の
方を見ていたが、やがて、英明がこうつぶやいた。「・・・のう、ここまで見事に策
が的中するとは、半兵衛という男、只の人物ではないのう」すると英範も、全く同
感、といった表情で、「おう!認めるっきゃねえわな!やっこさんの実力をよ!!」
と、開戦前の半兵衛に向かって取っていた反抗的な態度の事など忘れたような、
まるで、ずっと前から好意をもっていた感じの口調で言った。将兵達がそんな事
を話していると、やがてそこに、馬に乗って半兵衛が現れた。「あっ!!軍祭酒!」
と、英範が、まるで、主人の元に駆け寄る子犬のように、半兵衛の元に駆け寄ると
、「こら、英範、失礼だぞ」と、英明がこれをたしなめ、「祭酒。祭酒の策が尽く的
中し、五万の兵は殲滅され、敵将・榊原康政も関東に撤退いたしました。我が軍の
勝利です。」と、報告した。「解りました。皆、ご苦労様でした。これも、皆の忠勇の
賜物です。今夜は、皆の慰労も会わせて、勝利の祝宴を開きましょう。皆、是非とも
この宴に出席し、戦の疲れを癒してください」「おおっ、さすが祭酒、気がきくじゃねえ
か。よっしゃ、今夜は酒盛りじゃ!!」と、英範が歓声をあげると、周りの皆もそれに
併せて、どっとばかりに、「半兵衛様、バンザ〜イ、正裕様、バンザ〜イ!!」と一斉
に歓声をあげた。

お名前: 趙翼   
―続き―
その頃、デスピサロの本拠・江戸でも、人事面において動きがあった。と、言うのは、
新たに二人の人物がピサロ陣営に登用されたのである。一人は、「乱世の逸材」と
評され、文武の才に深い天才策謀家・黒田官兵衛と、今一人は趙翼である。ピサロ
はこの趙翼に、所領として、甲斐国の躑躅ヶ崎館を与え、「大史寺」という、今で言う、
歴史編纂室長の役目を与えて編史の任務につかせた。一方、黒田官兵衛には特にピ
サロ自ら、その超絶の才を買って、自らの直属であるピサロ軍最強部隊・「胡彪軍」
の総帥に任命してその全権を委ねたのである。

お名前: 趙翼   
―隠れ英傑紹介―
安藤戒午・・・尾張国中村の人。先日、NHKで放送されていた「剣道八段撰手権」で
、あの、「八百八取将軍」岩佐英範を降し、優勝の栄冠を勝ち取る。・・・・・・・・
もとい、宮崎正裕が川越城主であった頃、その剣道への情熱を嘉してこれに仕官する。
しばしば、栄花直輝と並び称される程の実力の持ち主なるも、その寡黙にして、己を前に
出さぬ、静かな性格の為に目立たず、これまでの戦においても、決して表舞台に現れる事
なく、裏方に徹する事が多かった。

お名前: 趙翼   
―続き―
そんなある日、ピサロ軍の軍師長として、会津城に駐屯して、東北地方一帯
の軍事・内政を統括していた陳宮が、ピサロに謁を求める為、江戸に上京し
てきた。
「おお、陳宮、久しぶりよの。どうじゃ、東北地方は上手く治まっておるか
?」「はっ、副将軍様の御威光により、つつがなく治まり、民達も、夜、戸
締りをして寝なくとも良いほどにございます。・・・所で、ピサロ様はこの
度、黒田官兵衛に命じて、新たに「胡彪軍」の総帥として、その全権を委ね
たそうでございますな」「うむ、そうじゃ。あの男の才は古今のどの英傑の
それをも超越しておる。故に、あ奴を「胡彪軍」の総帥に任命したのじゃ」
「・・・あの男は、危険です・・・。」「む、危険とな?」「はい、私の聞
き及ぶ所によりますと、あの男は嘗て、朝鮮を旅していた時、朝鮮の政府軍と
朝鮮族の流賊の連合軍五万を、たった数分で、しかも一人で皆殺しにした、と
言う、神か悪魔かと思う武力を持ち、また、その智は、遥か数万年先の事態ま
で見透かしているかのような、誠に不気味な物で、その才量を例えるなら、か
の「龍○伝」の仲達にも勝るとも劣らぬものでございます。」「・・うむ」
「そもそも「胡彪軍」は、朝鮮半島を除く人界・魔界・神界の各地より、武勇
智謀、衆に抜きんでた者達を集めて結成された、紛れも無く世界最強の精鋭部
隊。前総帥の板垣信方殿がなくなられたとはいえ、その後任にあのような男を
つけるのはいささか心配にございます。」すると、それまで黙って聞いていた
ピサロが、いきなり体を大きく揺すりながら笑い出した。「ふわっはっはっ!!
そうかそうか、お主も危険な香を感じるか!ふわっはっはっ!!」

お名前: 趙翼   
―続き―
「と、殿・・!?」「いや、何、あの官兵衛の目はあやつににているのよ!」
「と、言いますと・・」「お主も知っての通り、わしはかつて、異世界にいた
時、そこを征服せんと、何千何万という魔物どもを率いて、その世界に君臨し
ていた諸王朝と闘っていた事があった。精強な魔賊を率いたわしの軍は連戦連
勝を重ね、もはや、わしの野望を阻む者は誰もいないようにおもわれた。じゃが
・・・ある時、ひょっこり現われた、たった一人の勇者によって、わしを含め、
何千何万もいた魔軍は一人残らず討ち取られ、わしの野望も水泡に帰した・・」
「殿・・・」「あの男はその時の勇者と全く同じ目の輝きを持っている。故に、
わしは、賭けをして見たくなってな。」「賭け?」「うむ、わしの才と官兵衛の
才、いずれの才がより超越しているか、そしてまた、いずれの才をこの乱世は必
要としているかと、な」「・・・・・(ピサロ様もまた、乱世の申し子。だが、
その豪胆さが、裏目に出ねば良いが)」

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、ピサロと陳宮がそんな事を話した次の日、三河討伐軍の総大将として
岡崎へ行っていた榊原康政が江戸に戻り、白はちまきで自分の目を隠し、両
手を後に縛り附ける、という、まるで死に装束のような恰好で戻ってきた。
「康政、その恰好はどうした事じゃ?」「ははっ、この康政、大口を叩いて
ピサロ様の大切な兵力を授かりながらこのような有様となってしまい、それ
故、今日は殿に如何様なる処分でも取って頂きたく、この恰好で参上致しま
した。」「ふむう、お主が半兵衛の智略の前に一敗地に塗れた、という報は
すでに受けておる。じゃが、小さき時より兵法と剣道を学び、また、長じて
からは歴戦を経て、経験も豊富なお主がああも簡単に打破られるとはのう・・」
「誠に情けなき次第。このような次第となった以上、弁明をする気はございま
せぬ」それを聞くと、ピサロは俄かに微笑を浮かべ「・・ふっ、まあよい。縄
を説いてやれ。」「殿・・。」「御前も優れた将だ。こんな所で死のうと思わ
ずに、これからも我が為に働いてくれ。それと、後で、○○にお礼の一言でも
言っておくがよい」「は、ははっ!!」
(・・・むう、康政程の名将をこうも軽々と手玉に取るとは・・半兵衛、また
一人、わしの天下統一の妨げになる輩が現われおったか・・)

お名前: 趙翼   
―続き―
そして、しばらくの間、考えこんでいたピサロであったが、やがて、「のう、
子揚」と、自分の側に伺候していた謀臣の劉曜に向かっていった。「こたび
の康政の敗北、そなたはどう見る?」「はい、こたびの戦は只々、敵の恐る
べき智略ぶりに驚嘆するばかりでございます。」「ほう・・と、言うと?」
「先ず、榊原殿の心理を巧みに衝いた挑発ぶり。そして、その挑発により、
見事に、大軍が通過・交戦するに相応しからぬ狭い山道に誘い込み、部隊の
半数が入り込んだ所で、我が軍の前衛と後衛を遮断して、互いに救援に赴け
ないように前と後で火計をし掛けた事でございます。これにより我が軍は恐
慌状態に陥り、陣形を整えて事態に対処する事もできぬまま、多数の兵が炎
に焼かれる事になりました。さらに、もっと巧妙だった事は、逃げ延びた兵
達を待ちうけるために、正確な位置に伏兵をしかけていた事にございます。
この三部作戦により、さしもの精鋭も全く実力を発揮できず、ほぼ、一方的
に敵に打ちのめされたのです。恐らく、私が軍師としてこの戦に赴いても、
結果は同じ事になったでしょう」

お名前: 趙翼   
―続き―
「むう・・そなた程の者でもか・・」「はい、これまで、正裕が、英明
、英範、直輝そして戒午のような万夫不当の神将を自分の幕下に擁して
いながら、天下に打って出る事はおろか、自分の基盤すら持てなかった
のは、彼等の実力を最大限に出し尽くす策を捻出する名軍師が不在だっ
たからです。その、正裕の最大の欠陥も、今回、半兵衛を軍師として招
聘した事で、大きく補充されたと見て良いでしょう。この上に内政の充
実、国人衆、寺社衆との関係強化、城の普請などといった軍備の増強に
回られますと、岡崎は我らの天下統一に大きな障害となるかと・・」
「ならば、改めて大軍を編成し、それをもって岡崎を再度攻撃するか・・」
「いえ、弱きを攻め滅ぼし、それから徐々に強敵に当るべきです」「ほう
、それは?」「はい、正裕は今、美濃の織田有楽に身をよせていますが、
この有楽が、最近、重病に陥り、明日をも知れぬ状態、と言う事です。し
かも、有楽の軍勢をみてみると、確かに、国は豊かで、武装の質も兵力も
正裕達のそれより優れていますが、将兵ともに戦なれした猛者が少のうご
ざいます。おまけに、軍法が良く整っていない為に、「信賞必罰」が徹底
しておらず、その為に、将兵の間には不満が充満し、軍の士気はとみに下
がっているとの事。今、美濃に兵を繰り出せば、至極簡単に攻め落とせる
と思います」「なるほど」「そこで、美濃尾張の兵を併せ、確固たる補給
路を整備し、長期戦の構えをして岡崎を攻めれば、如何に半兵衛が鬼神の
如き策士であっても、もはやどうにもならぬ事でしょう」

お名前: 趙翼   
―続き―
「ふむう、しかし、刈りに我等が美濃を攻めるとして、岡崎の正裕は
援軍に来ぬか?」「それでしたらこうすればどうでしょう?先ず、お
味方の軍勢を三つに分けます。そして、先ず、第一軍には美濃を攻略
させ、第二軍には遠江と三河の国境に結集させ、岡崎・吉田両城の軍
がうかつには動けないように監視させ、もし、敵に動く気配あらば、
撹乱策にでるよう手配させます。そして、第三軍には、越後を経由して
能登・加賀・越中を攻略させ、北陸を制圧させ、越前・近江の軍勢の動
向を監視させるのです。こうすれば、殿の行軍を邪魔できるものは一人
もいなくなるでしょう。」「よし!その策を持って行こう。されば、
これより軍評定を行う。お庭版、直ちに諸将を会議場に召集しる!!」

お名前: 趙翼   
―続き―
こうしてピサロは、軍師・劉曜の策に従い、北陸征討軍・美濃征討軍・そして
正裕達のいる三河・尾張を征討する三つの軍からなる大軍を編成し、それらに
命を下して、一斉に西進の途につかせた。
各軍団の陣容を見ると、まず、北陸軍は黒田官兵衛を総帥とした、「胡彪軍」
の幹部達が指揮を取ってこれに当り、美濃征討軍には、ピサロ自らが総指揮を
取り、最後に、三河・尾張征討軍の大将には、山県昌景を総大将とし、小島弥
太郎と、李典がそれの補佐にまわっていた。
こうしてこのまま、織田有楽・宮崎正裕の連合軍との大決戦が始まるかと思わ
れたが、突如、事態が急変するような出来事が起こる。
ピサロが、美濃への道の中継地点に当る深志城に宿泊していた時の事である。
いよいよ美濃は目と鼻の先、と彼が諸将を集めて評定を開いていると、織田有楽
の使者として、林秀貞と名乗る人物が目通りを願い出て来たのである。
その秀貞の話によると、前々から危篤状態に陥っていた織田有楽が先日、亡くな
ったと言う事、そして、織田信孝がその跡を継いだが、重臣の屋代景頼がこれを
不服として、同じくこれを不服としていた他の連中と語らってクーデターを起こ
して織田家の本拠城であった岐阜城を乗っ取り、信孝を伊勢の鳥羽城に追いやっ
た事、そして、新当主の信孝が城から追い出された事と、景頼達の説得工作によ
り、尾張・美濃の両国はピサロ軍に全面降伏をするので、どうか、自分達を攻撃
しないで欲しいと言う事、そして、この事はまだ、岡崎の正裕には知らせていな
い、と言う事だった。
ピサロはこれを聞いて大いに喜び、秀貞をもてなし、また、これに多額の金銀を
もたせて城に返した。こうして尾張・美濃が闘わずして手に入った事により、戦
局はますますもってピサロ軍有利に傾いていった。ただ、一つ予想外の出来事が
起こったのは、林秀貞が岐阜に帰る途中、英明率いる警邏隊に捕まり、尋問の末
、これまでのいきさつを全部話した事ぐらいであった。

お名前: 趙翼   
―続き―
「何ィッ!?岐阜の軍勢は戦わずしてピサロに降ったと言われるか!?」
英明によって連行されてきた秀貞の口から、岐阜城主・織田有楽が既に
この世を去っていた事と、屋代景頼のクーデターにより、新当主・織田
信孝が伊勢に追いやられた尾張美濃の軍が呆気なく降伏した事をきくと、
天地がひっくり返る程に驚いた。何故なら、降伏の話はおろか、有楽逝去
の報や、信孝失脚の報も、今まで景頼によって正裕達には秘匿されて全く
知る由もなかった為、正に「寝耳に水」な話だったからである。
「わ、私は只、命じられただけで・・・」と、秀貞が怯えながら話すと、
半兵衛が冷静な口調で言った。「秀貞殿、デスピサロめは、尾張美濃を
制圧した後、どのように動くか、お話願えますか?」「は、はい、ピサロは
尾張美濃を占領して、大軍をまかなえる補給路を確保した後、現在、駿河国
に駐屯している別働軍と呼応して、三河や伊勢志摩など、織田家の旧領でまだ
、自分に服していない地域を侵攻するつもりのようです」「なるほど」

お名前: 趙翼   
―続き―
「申し上げます!駿河に待機していたピサロ軍の別働軍が突如、この三河に向
けて進軍を開始したそうにございます!!」と、血相を変えて飛んできた伝令
の報告を聞くと、まるで茄子のように真っ青な顔になった秀貞が力ない声で
「な、何故じゃ。そ、そんな、ば、馬鹿な・・わ、わしの聞いた所では、た、
確かに岐阜の軍と二方面作戦を展開するはず。そ、それが何故・・?」
すると、伝令兵がこう答えた。「はっ、何でも、三河侵攻軍の記室参軍(書記官)
の金天三の息子・金真史が過日、訳もなく、妙チクリンな落書きを残して自殺した
そうで、それを受けた天三は悲しみの余り、略奪と蒸の為に侵攻の軍を発したそうに
ございます。」「なんじゃとぉぅ!!(三国無双・猛将伝の張角みたいな口調で)」
すると、しばらく黙って話を聞いていた正裕が半兵衛に向かい、おもむろに口を
開いた「半兵衛よ、今、関東軍と戦って勝てるか?」すると半兵衛、半錯乱状態
になった秀貞を横目に冷静な口調で「いえ、まともに当ってもとても勝てますまい。
残念ですがここは一旦、この岡崎城を打ち捨て、清洲城に退却するべきと思います。」
「うぅむ、そうか・・」と、正裕が暗い表情で頷くと、優しげな微笑を浮かべて
こう言った「しかし、連中に只でこの城を明渡すは余りにも勿体無いですな。
この際、駿河のピサロ軍には壊滅してもらう事にしましょう」

お名前: 趙翼   
―続き―
「おおっ、何か策があるのか、祭酒」と、英範が明るい声で尋ねると、半兵衛は、
優雅な微笑みを浮かべつつこう言った。「はい。まず、栄花直輝殿と安藤戒午殿
には、薪や藁など、燃えやすい物を各建物の屋根の上に敷き詰めてもらい、その
上に油をぶっ掛けて頂きます。そして、その上に火をつける兵を何名か伏せてお
いて下さい。敵軍が岡崎に入ったその日の夜は、猪の刻(午後11時頃)になると
いつに無く強い風が吹きますので、その時を見計らって、一斉に放火するように
指示して下さい。お二方と残った部隊は、城が火に包まれて、慌てふためいた
敵兵が、火付け部隊がうっかり火をつけ忘れた東門から逃げ出してくる所を、
一斉に攻撃して下さい。」「はっ、解りました、しかし、ご安心下され、火の付け
忘れが無いよう、しかと念を押しておきます」戒午がそう言うと、半兵衛は、「い
や、貴方方の部下は、必ずや東門に火を点けるのを忘れる。私は言う、貴方方
の部下は、鶏が三度鳴くまで、東門に火を点けるを思い出さないだろう」「はっ、
はぁ・・」そう言うと半兵衛は、俄かに英明・英範の方を向き、言った。「まず、
英明殿とその部隊は、岡崎城の東の川を堰き止めて頂く。その後堰には兵士を
何名か残しておき、残った部隊はピサロ軍が雪崩れ込んでくるであろう、川の
中流の近くの林に伏せてもらいます。そして、敵軍が川に差し掛かり、半ばが
渡った所を見計らって、堰を切って、激流をもて敵を押し流して下さい。敵軍が
総崩れになったら、林に伏せていた部隊は一斉に打って出て、これを殲滅して
下さい。」「はは」「英範殿とその部隊は、英明殿の部隊と共に林に伏せて、
激流によって敵が壊滅した頃を見計らい、英明殿の部隊と共に攻撃してもらい
ます」

お名前: 趙翼   
―続き―
「・・・う〜む、でもよう、本当に奴ら、東の川に逃げてくるんですかい?
逃げ道なら他にいくらでもありますぜ。」「大丈夫。必ずそこに逃げる。私は
言う、持っているものは更に与えられ、持たないものは、持っているものまで
取り上げられる、と」「へぇ〜い」「さて、私と秀克殿と実殿と武彦殿は、町中の
集会所に、『ピサロ軍の大襲来あり、我と共に逃ぐるを遅疑する者あらば、そ
の者、必ずや彼の戮する所とならん』と、布令を書いた立て札を立てて頂き、
我々に付いて来る民衆達を先導して、清洲城に入城させます。」「ははっ、
解りました」こうして、半兵衛の策は行われた訳だが、驚くべき事は、その
策のみならず、その、預言した事までもが逐一的中した、という事である。
為に、岡崎に征討してきた討伐軍はほぼ全滅し、この戦の首謀者・金天三も
また、城の中で大酒宴を催し、よっぱらって裸踊りをしている最中にいきなり
火攻めにあい、訳も判らぬうちに焼死してしまった。
ともかく、この戦以来、敵味方を問わず、将兵の間には、ますます、半兵衛に
対する畏敬の念が深まって行った。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、こちらは岐阜のデスピサロ。自分の自慢の精鋭が一度ならず
二度までも半兵衛の奇策の前に敗れ去った事を知って、怒髪天をつ
かんばかりに怒り狂った。
「お、おのれぃ!!半兵衛・正裕!余の軍勢を二度も蹂躙しおって!
ええぃ、何をしておるぞ者ども!今から、全軍をあげて清洲城の正裕
どもを討つ。したくをせい!!」すると、会議場の末席の方より一人
の美青年が進み出て言った。かつて、伊達政宗の軍師の一人で、政宗
滅亡後は、その智勇と美貌をとくに愛でられ、近習としてピサロの寵
愛を受けていた田豊という人物である。「殿、お待ち下され。今、大
軍をもって宮崎殿を討伐するのは、得策とはもうせませぬ」「おお、
田豊か、何じゃ、すると、このわしも又、半兵衛にしてやられると申
すのか」「いえ、大王の魔神の如き軍略をもってすれば、よもや半兵
衛に巻けるなどと言う事は御座いますまい。しかし、問題は、その後
の事でございます。」「その後?」「はい、大王の優れた政治手腕は
、東北や関東でこそ普く知れ渡り、民衆もよく懐いておりますが、こ
こ、中部においては、まだ、大王が統治なされてから日が浅い事もあ
って殆ど知られておらず、亦、その為に民衆の信頼も得られていませ
ん。」「うむ」「そんな状態で大きな戦を何度も起こして民衆を塗炭
の苦しみに陥れては、たとい、宮崎殿を討てたとしても民心は得られ
ず、却って、宮崎殿以上の脅威を抱える事になりましょう」「ふーん

お名前: 趙翼   
―続き―
「では、田豊。一体、どうすればよいのじゃ?」すると田豊、この
時を待っていたとばかりに優雅な微笑を浮かべて、「宮崎殿に降伏
勧告の使者をお出し下さい。それで、もし、降伏に応じるのであれ
ばそれで善し。たとい、降伏に応じずとも、大王が民を慈しむ気持
ちが宮崎殿の民や、この美濃の民にも伝わり、大王の御名声を傷つ
けずに済みます。」「成る程、よし、早速使者を出せ」
三日後、清洲に移った正裕の元に、ピサロの使者として甄姫が訪れ
、正裕に、降伏すれば正裕軍の名誉と財産は安堵する、という旨を
告げてきた。
「・・・甄姫とやら、この話は重大なものなので、家臣とよくよく
相談したいと思う。しばらく、待っていてはくれぬか?」「・・・
解りました。善きご返事をお待ちしております。」
甄姫が去った後、正裕は半兵衛の方を向き、「今の話、そなたはど
う思う?」と尋ねた。「はい、今回、ピサロめがこのような使者を
寄越しましたのは、恐らく、未だピサロへの服従心の浅いこの地の
民衆に余慶な不安を与えさせぬ事で、その民心を掴もうと言う彼奴
めの策でしょう。」「やはり、そんな所か」「もし、我々が断れば
、彼は直ちに追撃の軍勢をこの清洲に向けて発するでしょう」
「ふむ、ではどうする。この城に篭城して戦うか?」

お名前: 趙翼   
続き―
「そうですね・・・(この清洲城に篭城して関東の大軍を迎え撃つ、この
策でいくか?・・・それとも、早急にこの城を捨てて南下し、織田有楽の
嫡男、織田秀信殿のいる伊勢の鳥羽城・長島城に移って、改めて反攻作戦
に移るか?・・・・・我が軍には英明・英範・直輝・戒午といった一騎当
千の勇将がいる。彼等の元に伊勢・南大和・紀州の強兵が加わり、更に万
策を練って関東勢を迎え撃てば、これを撃退する事も不可能ではない・・
よし!)この清洲城は、もともと篭城には向いておりません。私としては、
一刻も早くこの城を捨てて、織田有楽殿の嫡男・秀信殿の居城である、伊
勢の鳥羽城に向かい、そこで態勢を立て直すべきかと思います。」

お名前: 趙翼   
―続き―
半兵衛の言葉に正裕が頷く。「うむ、わしも、この清洲城では守るにはいささか物足りない
と思っていた。残念じゃがここは、一旦この城を出て、伊勢で再起を測る事としよう。
次の日、正裕は、宿舎に滞在していたピサロの使者・甄姫を呼んで会議の結果を話し、降伏
には応じない旨を説いてこれをピサロの元へと帰した。そして、持っていく荷物などを整理
した後、追撃の軍が来ないうちにと、その日の内に城を出て、伊勢へと向かっていった。
清洲を出てから三日目、北伊勢の「松阪」という田舎城に入った正裕達は、今後の撤退ルー
トを決める為の会議を開いた。それは、清洲城を引き払う時に、岡崎と清洲の民衆が一人残
らず正裕についてきたので、正裕軍の進軍スピードが極端に遅くなっていたからである。
会議の席上、民衆の世話役についていた安藤戒午が言った。「今、我々についてきている岡
崎・清洲の住民は実に十万を数え、この中には、老人や子ども、病人の割合も多い。今の行
軍のスピードでは、ピサロ軍にあっという間に追いつかれ、その虜にされてしまうのは時間
の問題です。殿、祭酒、何とぞご対策を」それを聞いて、正裕が半兵衛に問う、「のう、半
兵衛、先ほどの戒午の申すとおり、今のままではデスピサロの軍勢に追いつかれてしまうの
も時間の問題じゃ。だが、だからと言って病人や老人を急かしたりするわけにもいかぬ。ど
うした物かな」

お名前: 趙翼   
―続き―
すると半兵衛がこれに答えて言う。「はい、私も、このままの状況ではいずれ、ピサロ
軍に追いつかれてしまうと、不安に思っておりました。しかし、この松阪は幸い、港や
漁村に近く、船を調達しやすい所です。そこで、この近くの港や漁村の者達に金品を振
る舞って船を譲り受けて船団を編成し、全軍を陸路の軍と水路の軍とに分け、老人や病
人など、体の弱い者達を船に乗せて水路から鳥羽へと急行させ、残りの、体の強い者達
は陸路から鳥羽に向かわせます。このようにすれば行軍のスピードも速くなり、ピサロ
軍の追手に捕まる事もないでしょう」「うむ、それはよい。では、この采配はそなたに
任せるぞ。」「ははっ。それでは、英明殿。」「はっ」「英明殿は三百の兵と共に船団
を率いて鳥羽に急行してもらいます。」「承知しました」「井上秀克殿も、民衆の世話
係として英明殿の船団に乗り込み、水路から鳥羽に行って頂きます。」「解りました」
「残りの人は殿と共に陸路から鳥羽にむかって頂きますが、川名実殿と志村武彦殿は三十
騎の兵を引き連れて早馬として一足早く鳥羽に行って頂き、城主の織田信孝殿に状況を説
明して迎えの軍勢を陸路軍に差し向けて下さるようお願いして下さい。」「ははっ」
そして翌日、正裕軍は半兵衛の指揮の元、慌ただしく己が分担の作業に取りかかり始めた。

お名前: 趙翼   
―続き―
こうして、水陸二つの軍勢に分担された正裕軍は、その日の内に城を離れ、
目的地である、鳥羽城へと向かった。途中、ピサロ軍の追撃の手が及ぶ事
もなく、また、軍を分けた事により移動もスムーズに行われた為、松阪を
発して三日後、正裕軍は陸・水両軍とも無事に鳥羽城にまで辿り着いた。
正裕達が城に到着した、という報を聞くと、城主・織田信孝は、丁度食事
中であったが、それまで、咀嚼(噛んで食べる事)していた鯛の唐蒸しを吐
きだして、取る物もとりあえずに自ら正裕を出迎えに城下へと向かった。
「おおぉ!正裕様に半兵衛様!ようこそご無事で御座いました。むさ苦し
い城でございますが、今日からはこの鳥羽城をご自分の城とお思いになり、
ご自由にお使い下さいませ。」「信孝殿、この流浪の者にそのような厚恩
をおかけ下さり、誠に感謝に耐えませぬが、そのような過分の配慮は無用
です。どうか、余り、気に掛けないで下さい」「いいえ、かつて、半兵衛
様にこの命を救って頂いた御恩に比べれば、この程度の事など、些細な事
でございます」

お名前: 趙翼   
―続き―
すると、それまで傍らで話を聞いていた英範が顔を出して、「えっ、ウチの祭酒と
何か関係があるんですかい?」と信孝に問い掛ける。信孝は笑顔で、「はい、その
昔、といっても、つい先ごろの話なのですが、半兵衛様には大変お世話になりまし
た。
 そう言うと信孝は、その時の話を話し始めた。信孝の話はこうである。
尾張・美濃の領主であった織田有楽には二人の子どもがいた。一人は、有楽の嫡男
であった信孝と、もう一人は重臣・屋代景頼の娘との間に生まれた異母弟・織田秀
信であった。
当初、織田有楽の跡目は、嫡男である信孝が継ぐものとされていたが、秀信が生ま
れた事により、織田家の外戚となった景頼が、秀信を後継ぎとすべく策謀を始める
ようになる。
最初は、信孝の悪い噂を家中に吹き込み、彼の名声を貶めようとした程度であった
が、年を経るにつれて段々エスカレートしていき、正裕達が有楽の元に身を寄せて
来た頃には食物に毒を混入して暗殺を謀る程になってきた。

お名前: 趙翼   
―続き―
この只ならぬ事態に大きな不安と危機感を抱いた信孝は、その頃、正裕の
軍師として仕官した半兵衛の噂を聞きつけ、これと会って対策を伝授して
もらう事とした。この時、半兵衛が信孝に話したのは、「春秋の五覇」と
称される中国古代の覇者の一人で、晋と言う国の王であった文公の話であ
った。
文公の先代の王・献公と正妻の間には申生と重耳という、賢い二人の兄弟
がいて、献公もこの二人の息子をとても信頼していた。が、重耳が生まれ
て間も無く、正妻が死去した為、父の献公は側室を迎えた。そして、それ
からしばらくして、この側室と献公の間に、またも男の子が生まれた。
申生と重耳から見れば、異母弟の誕生と言う事であるが、それだけでは済
まなかった。側室が我が子可愛さの余り、この異母弟を告ぎの晋国王とす
べく、策謀を働かせる様になったのである。

お名前: 趙翼   
―続き―
まず、その異母弟は、兄の申生を陥れるべく様々な策謀を企み、それに
よって父の献公の心に疑心暗鬼を生じさせ、ついには処刑させる事に成功
したのである。それを見たもう一人の王子・重耳は、「次は自分の番だ」
と心に恐れを抱き、ある夜、密かに城を抜け出て国外へと逃亡した。
―それから十九年後、献公の後を継いだ側室の異母弟・某公の後を継いで
晋国王となった文公。これぞ、あの重耳だったのである。
と、このように話した半兵衛は、信孝にこの故事に倣い、一旦、岐阜を
離れて遠い所に赴任し、そこで時期を待つべし、と献策し、それを受けて
当時、まだ誰も名主として赴任していなかった伊勢・鳥羽城と志摩国の太
守の任を受け、自身は鳥羽城に入り、身の安息を得る事ができた、という事
ができた、という事である。
それを聞いて英範が一言、「へ―、あっそ」

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、正裕一行が清洲を出た後、無事に鳥羽に到着したのを聞いたピサロ
は、「へ―、あっそ・・・じゃない!もし、正裕達が民衆を引き連れて伊
勢路をうろうろしている内に軍勢を急行させていれば、民衆の為に身動き
すらままならぬ正裕軍は抵抗する事も適わず、残らず我等の虜になったで
あろうに、大魚を逃してしまったか・・」と、後悔の念を漏らしていると
、軍師の劉曜と田豊が進み出て言った。「殿、まだ残念がるには及びませ
ん。確かに、宮崎殿の一行は鳥羽に入ったとは言え、彼らは未だ小勢。こ
こは、彼らが勢力を増強するのを阻止しつつ、こちらの態勢を万全の物と
して、その上で改めて大軍を繰り出して鳥羽に攻め寄せれば、流石の半兵
衛先生も我等に降伏する他ありますまい。」
それを聞いて、ピサロの目が怪しく光った。劉曜はさらに言葉を次いで、
「鳥羽に入り、拠点を得たとは言え、半兵衛はすぐには反撃にはでますま
い。まずは、周辺の勢力と同盟を結んで、共に我等に手向かってくるよう
にした後、改めて反撃の態勢に移ると思われます。そこで、われらの方か
ら先に、その周辺勢力を制圧・屈服し、半兵衛めの陰謀が入り込む隙を与
えぬよう謀るのです。」

お名前: 趙翼   
―続き―
「ふむう、なるほどのう・・では、半兵衛めは一体、どこの勢力と手を
結びそうかのう?」「そうですな・・・考えられる所としては、四国一
帯を支配し、瀬戸内海全土に渡って強大な勢力を誇り、その水軍の力も
決して侮れないという土佐の覇王・長宗我部元親か、あるいは、三国
(日本・中国・インドの事・・・「魏」「呉」「蜀」じゃないよぅ)一の
陸軍を自称する李氏朝鮮王国、と言った所でしょうか。」
「なるほどのう・・・よし、解った。では、四国軍に対しては中山道方
面軍と東海道方面軍も、その一部を残して摂津国の石山本願寺に集結さ
せ、大規模な練兵を行わせる。これは四国軍に対しての示威行動じゃ。
そして、朝鮮にたいしては黒田官兵衛と前田利家率いる北陸方面軍を討
伐に差し向けよう。もし、戦う前に我等に降伏すればそれでよし、さも
なくば王家を滅ぼしてくれよう。ただし、政治上の事もあるから、民に
対する暴虐は厳禁といたす。これでよいかな?」「従命(ツォンミン)」

お名前: 趙翼   
―続き―
ピサロ軍の行動は迅速であった。ピサロの命令が発せられると、田豊・劉曜らの
諸軍師と諸大将が中心となって、各地に駐屯していた東海・中山道方面の各軍団
に布令され、早くもその一週間後には大坂の演習予定地に北陸方面軍を除くピサ
ロ軍の全軍が召集されたのである。全軍が召集したのを確認したピサロは、早速
、えんえん数百里にも及ぶ演習範囲を設けて、そこで大規模な水軍の演習を行わ
せ、夜になると、陸地の陣は元より、海に配置してある船団にも沢山のたいまつ
を威勢良く焚かせて、遠くからでもその軍勢の規模が解るようにした。
この示威行動に、土佐の覇王・長宗我部元親も流石に驚嘆し、配下の中からも、
このピサロ軍の勢いに恐れをなし、密かに挨拶状をよこしてピサロのご機嫌を
伺いに来る物まで現われるようになった。
これをみたピサロは、ほくそえみつつ軍師の田豊の方を振りかえって言った。
「ふふふ、あの演習がまさかこれほどの効果を上げようとはのう。いや、お主等
の策、正しく神計というに相応しい」すると田豊、ピサロに向かって拝礼しつつ
、「とんでもございませぬ。これは只ひとえに、殿の御威光と英邁の賜物でござ
います。ところで、土佐がこのような事態に陥った今こそ好機です。元親の元に
降伏勧告の使者をおだし下さい。今ならばきっと、元親も戦っても勝算はないと
見て、この話に載って来るものと思われます。」

お名前: 趙翼   
―続き―
「おう、よくぞ申した。しかし、もし彼奴等が勧告に応じなければ
どうする?」「その時は兵を発して四国に攻め込みます。上は将兵、
下は民衆に至るまでが動揺している今の状態ならば、精強な四国軍
といえども、殆どの者が戦わずして逃げ出すか、途中でこちら側に
寝返りましょうから、無傷で四国を制圧する事が出来ましょう」
「よし、ただちに元親に使者を送ろう。指し当って誰がよいかの」
「鎌倉館の館主・北条幻庵殿は如何でございましょう。あの方も、
今回の遠征に、文官として同行しております」「よかろう」

お名前: 趙翼   
―続き―
それからしばらくして、関東からの使者・北条幻庵が、土佐にやってきた。
表向きは友好親善の使者という事だったが、その実、土佐に対する降伏勧告
の使者だと言う事は誰の目にも明らかであった。
「・・・我が君・デスピサロは土佐の覇王である元親様と末永い友好を結び
、両国の繁栄を心より願っておられます。何卒、良いご返事を頂きたく、こ
こに参上致しました。」「おお、左様でござるか、それがしもピサロ殿とは
友好を結びたいものとかねがね思っていた。所で、幻庵殿も長旅でお疲れの
事と思う。田舎故に大したおもてなしはできぬが、この付近の名湯である底
倉の湯にでもつかり、十分に疲れを癒していただきたい」「お心遣い真にあ
りがとうございます。それでは、これにて失礼いたします。」

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、こうして、何とかピサロの使者を一時退散させた元親は、すぐ
さま家臣を集めて、対策会議を開いた。
「皆も存じておるだろうが、関東のデスピサロの元より、使者が参っ
た。先方は友好の使者と言っているが、最近のピサロ軍の瀬戸内近海
における演習などの、明らかに我等への恫喝としか思えない行動から
見て、これは実質上降伏勧告の使者と思われる。この事態に対してど
うすればよいか、皆の忌憚なき意見を聞かせてほしい。」と、元親が
切り出しても、当の家臣達にもこれと言った意見が無いのか、皆、あ
たりを見回したりヘラヘラしたり涙目になったりするばかりで、対策
どころか意見も出ず、イタズラに時間が過ぎていくばかりであった。
その次も、またその次の日も、元親は家臣達を集めて評定を開くも、
家臣どもは常に冴えない表情をするばかり。
そんな、阿呆みたいな評定とも言えぬ評定が三週間も続き、さすがの
元親も苛立ちが募ったのか、「ええぃ!このままではラチがあかぬ。
この上はピサロの使者を斬り、このわしが単身、奴の城にちん入して、
ピサロめの首を切り落とし、その後でこのわしも豪快に腹を切ってく
れるわ!!」元親がこうタンカをきると、それまで、物音一つ立たな
かった会議場から割れんばかりの歓声と、「ヒューヒュー」と言う口
笛とであふれ返って一時、事態の収拾がつかなくなり、会議は一時、
中断する事となった。しかし、結局この日も具体的な対策は浮かばず
じまいであった。

お名前: 趙翼   
―続き―
と、まあこのように、いつまでたっても一向に良い案が浮かばぬ家臣たちを見て、
このままではらちがあかないと見た元親は、明くる日、底倉の湯に漬かっていた
ピサロの使者・北条幻庵をよび、友好親善のお近づきとして特産のうどんを持っ
て返らせ、何とかその場を切り抜けさせた。しかし、この一件で家臣達の不甲斐
なさを思い知った元親のショックは大きく、それ以来、政務にも会議にも顔を出
さず、自分の部屋に引篭って唯々、日がな一日俳句を詠むだけ、という絶望的な
生活を送るようになった。
そうして、それから一月がたった頃、余りに元親が政務の場に出てこないのを心
配した元親の母が彼の元にいって訳を尋ねると、彼は泣きながら「私はともかく
、家臣達があんなに不甲斐なくては、この私の非才では如何にして領国を守って
いけるのかと、自信がなくなり、こうして引篭っていたのです」と、そう言うと
また大泣きする有様。

お名前: 趙翼   
―続き―
それを聞いた母は、元親をなだめてこう言った。「ええぃ、大の男がそう女々しく
泣くものではありません。確かに、ここにいる家臣達全員が頼もしいとは言えませ
ん。しかし、だからと言って全員が全員不甲斐ないとも言えませんよ。さがしてみ
ればこの四国にも何人かはそう言う、『幹国の器』と言われ得る人材がいるじゃな
いですか」「例えば、誰が?」「そなたは亡き父上の遺訓をもうお忘れになったの
ですか?父上はお亡くなりになる直前、国外の事は親貞に問うよう、おっしゃって
いませんでしたか?」すると元親、それまで泣き崩れていた顔に笑みをたたえて、
「おお、そうでした。今まですっかり、その事を忘れていました。母上、お教あり
がとうございます。これからは彼と相談して、この難事に対処致します」
それからしばらくして、元親の命により、駐屯先であった土佐の中村御所から、「親
貞」こと水軍奉行・佐竹親貞が元親の居城である土佐・岡豊城に呼び戻され、供に策
を謀る事となった。そして、その親貞の提案により、伊勢国・鳥羽に滞在していた宮
崎正裕の元に、視察と友好親善を兼ねた、所謂公然たる密命大使が派遣されたのは、
さらにそれからしばらくたってからの事であった。

お名前: 趙翼   
―続き―
その頃、デスピサロの魔手を逃れて、伊勢・鳥羽へと落延びた正裕達は、これからの
戦略をどのように決めていくかを、軍師・竹中半兵衛を中心として連日にわたって討
論を繰り返していた。
「今の我等が『天下三分の計』を成し遂げ、関東に匹敵する力を持つためには、李氏
朝鮮か四国の長宗我部を味方に抱き込んでピサロと戦わせ、その漁夫の利を得る事です」
と、半兵衛が言うと、正裕が不安そうな顔をして、「確かに、これまでの策の素晴らしさは
認めるが、むこうも大国にして賢者も多い。そう簡単にこちらの思惑通りに動いてくれるで
あろうか?」「何、心配には及びませぬ。昨夜、私が天文を見た所、朝鮮では近い内に
戦火が発生し、土佐からは使者が訪れる、という象が出ておりました。間も無く、四国の方
から使者がやってくる事でしょう」と、半兵衛が言い終わったその刹那、城の門番の隊長が
息せき切って慌ただしく正裕達の元に駆け込んで来た。「申し上げます。四国の長宗我部元親
殿のご使者で、善通寺蓮純と仰るお方が参られましたが、如何なさいますか?」
それを聞いた一同、半兵衛の予言の的中率に皆、驚きの色を隠せず、只呆然とするだけであった。
しかし、当の半兵衛はまるで、こうなる事が当たり前の事だったかの如く冷静な口調で、
「思ったより早かったですな」と言うばかり。これを見て不思議に思った英範が半兵衛に、
「ね、どうしてそんなに先の事が解るんですかね。一つ、わしらにも教えてくだされ」と
質問をした。半兵衛はそれに答えて「そもそも、四国は長い平安の為に国力は強くなりました。
しかし、それは同時に、軍の士気を弱める結果になってしまい、かつまた、四国は本州とは
かけ離れた島国である為に、特に東国の情報については疎く、従って、今回対峙しているピサロ
軍の実情についての情報も殆ど皆無。そこで、先ずピサロ軍の情報についてある程度解って
いる我々に使者を送っていくらかでもピサロ軍の情報を引き出し、それから国策を決定する、
と言う策を取ってくるだろうと見ていたからです。
ですから、こちらの方から別段動かずとも、やがて、向こうの方から動きがあるであろうという予測は
ついていたのです。」「ほぇ〜」

お名前: 趙翼   
―続き―
それから、半兵衛は正裕の方に顔を向け、「使者をこちらにお通しして、我が方と
同盟して共にピサロに当る事が得策である事を説得したいのですがよろしいですか?」
「うむ、よかろう」と正裕が言うと、半兵衛、兵士の方を向いて「それでは、ご使者
をこちらに丁重にお通しして下さい」と言う。やがて、兵士に案内されて、土佐の使者
である善通寺連純が半兵衛達の元へとやってきた。
そこで半兵衛は昨今の情勢を詳しく説明した上で、正裕達と四国が連携する事が最良の
策である事を説き、ついに、半兵衛自身が同盟の使者として蓮純と共に四国へ下る事を
承諾させる事に成功したのである。こうして半兵衛は、正裕達の将来と天下三分の計の
成否をその双肩に背負って、四国へと赴く事になった。

お名前: 趙翼   
―続き―
その頃、朝鮮征伐の為に能登に駐屯していたデスピサロの重臣・黒田官兵衛は
改めてピサロから征伐指令の手紙を受け取り、ほくそえんでいた。と、そこに
一人の影が入り込んできた。
「さすがですな。官兵衛様。この指令を逆手にとってご自分の望を達成なされるとは・・」
「おお、航空か・・。どんな事を考えてもお主には解るか。かなわぬのう。」「恐れいります」
と、航空という男が言うと、官兵衛は静かな笑みを浮かべながら、「お主の考えている様に、余
の望みはピサロなどのように己が天下を掴む事ではなく、この世に未曾有の大乱世をもたらし、
全てを破壊する事じゃ。その為には、朝鮮は良い拠点になると、前々から目をつけておったのじ
ゃ。」
「はっ。仰せのとおりに・・」と航空が言うと、それを聞いた官兵衛、我が意を得たりと言わん
ばかりの表情を浮かべて、「されば航空よ。かの宮本武蔵に適するお主の鬼神の才、我が望みを
達成する為に存分に発揮するのじゃ」と、言うと、それまで無表情で聞き入っていた航空の顔色
に微かに怒気が混じり、少し荒い声で黄言った。
「武蔵の事は仰らぬ約束です。あのような垢達磨の阿呆など、所詮は弱者に過ぎません」
すると官兵衛、口元に冷酷な笑みを浮かべつつ、「ふっ、あの、吉岡道場の精鋭どもが束になっ
ても叶わなかった武蔵を弱者呼ばわりか・・ならば航空よ、その武蔵をも凌駕する武力、我が為
に存分に振るうがよいぞ」「御意・・」
それから一週間後、ピサロの命を受けた黒田官兵衛率いる胡彪軍と北陸方面軍の連合軍は能登
・宝達港から出陣し、いちろ朝鮮を目指した。この戦いに先だって官兵衛は、予めピサロの方か
ら、「非戦闘員は絶対に殺めない事と、戦闘員と言えども降伏する者にはやはり殺めてはならな
い」という命令を受けていたが、何を思ったか官兵衛はこれらの指令を無視して、主に胡彪軍の
者達に至る所で戦闘員・非戦闘員の区別も老若男女の区別もなく虐殺を行わせ、都を占領し、朝
鮮の全土を制圧する頃には朝鮮民族はこの世から根絶やしにされたのであった。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、首都占領の翌日、北陸方面軍の総大将であった前田利家が、官兵衛に講義
を申し立てに来た。
「おお、又佐か、如何したか?」という官兵衛の言葉が終わらぬうちに、利家は
語気を荒げて彼に迫った。
「如何も糞も無い!!今回の有様はどう言う事でござるか?罪なき人々を沢山殺した
ではござらんか!!」
すると官兵衛、何の悪びれた様子も無く、「ああ、その事か。その事ならお主には
関係無い。お主は只、わしの命令を聞いておればよい。」
「なっ、お、お主・・悪をなしたとは思っておらぬのか。お、おのれ〜っ!!」
と、いきりたった利家が官兵衛に切りかかろうとするも、官兵衛、見事な対術でするっと
よけて後に回り、ふりむきざま、「犬が・・身のほどを知れいっ!!」といって一党両断
してしまった。
利家を切った官兵衛は、その返り血を浴びた顔を航空に向けると、冷たくこう言い放った。
「もうしばらくしたら次の策に移るとするか・・・」

お名前: 趙翼   
―続き―
一方その頃、正裕の使者として四国の地に赴いていた軍師・竹中半兵衛は、
彼と同行していた四国の使者・善通寺蓮純の手引きにより、四国の覇王である
長宗我部元親に謁見する事になった。
元親は半兵衛が自らの元へやってくると、侍臣に命じて自分の座の側に彼の為の
座を作らせ、半兵衛がやってくると自ら彼の手を取ってその座に座らせた。
そして、一通りの挨拶を互いに済ませると、元親はいきなり話を本題の物に移して、
こう尋ねた。
「所で、半兵衛殿はこの度、我が四国と宮崎殿がお互いに手を結び、共にデスピサロめの
脅威にあたるべきと仰り、それが為にこのむさ苦しい四国まで遠路はるばるおいで下さった
との事じゃが・・・」
すると、半兵衛は優しい笑みを浮かべつつこう言う。「はい、もはやこの天下において、
ピサロめの脅威に立ち向かえるのは我が鳥羽とこの四国のみ。それ故、この二国は共に手を
組み、今こそ、奸賊・ピサロを滅ぼして、天下に安寧をもたらすが上策と思い、参上致しま
した」
「うむ、それはこのわしも常々、そう思っておった。同盟の話にしろ、むしろこちらの方こそ
お願い致す所じゃ・・。じゃがのう、今のままピサロと戦うのではいささか心許ないものがある。
わしの気がかりとなっておる三つの悩みが解決されん事には、安心して関東軍と決戦には
及べぬのじゃ・・・。」

お名前: 趙翼   
―続き―
「三つの悩み・・ですか。それは何でしょうか?」
半兵衛がこう尋ねると、元親はいきなり頭を抑えつつ、「あたたたっ・・いかん、
持病の頭痛がこんな時に・・半兵衛殿、すまんがわしはこの辺で、休ませて頂く・・
後の事は、わしの家臣の茅ヶ崎に聞くとよかろう・・」そう言うと元親は、側近に命じて
その茅ヶ崎なる人物を呼び出し、やがて、ボサボサ頭に鉢巻きをして、上半身は真っ裸という
異様な恰好をした男が入ってきて、元親に一礼すると、彼は返事もそこそこに、「これ、茅ヶ崎
、お主はここにいる半兵衛殿に、我等四国が抱える三つの悩みを、わしに代って説明してやって
くれ。わしは今から部屋に戻って俳句でも読みながら寝る。」そういうと彼は、半兵衛への挨拶
もそこそこに部屋へと退散していった。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、元親が部屋へと退散したあと、その茅ヶ崎という人物は改めて半兵衛に挨拶を
した。「お初にお目にかかる。それがし、長宗我部元親の家臣にして四国一の猛将を
自負する茅ヶ崎五位と申す。今日は高名な半兵衛先生にお目にかかれ光栄でござる。」
「いえいえ、こちらこそ。所で茅ヶ崎殿、四国の抱える三つの悩みとは一体何なのでしょう?」
すると茅ヶ崎はいきなり顔から生気を消しつつ、「はい、それは我が四国軍がピサロめに討ち
勝つ為に必要不可欠なものなのです。」
「必要不可欠・・ですか」
「はい。まず、そもそもピサロ率いる軍勢の殆どはこれまで、陸戦しか経験した事の無い者が
殆どで、それを指揮する将達の殆ども、こと海戦にかけては赤子同然で、かつ、四国の地理にも
全くの無知、という輩ばかりでした。しかし、この度、織田有楽殿の遺臣、屋代景頼めがピサロ
のもとに走り、さらにその配下の水軍もほぼ全てが彼と一緒にピサロに降伏した事により、この
弱点は殆ど解消され、仮に我等が海戦に持ち込んでも、勝機は殆ど無くなりました。これがまず
一つ」「・・・・・」
「二つ目は、海戦ともなれば矢張り、一番必要な武具は弓矢になるわけですが、矢が圧倒的に
不足していいるのです。あの大軍を相手にするのですから、百万本位は欲しいものですな〜。
かといって、今から作っていたんじゃ間に合わんでしょうし・・。」「・・・・・」
「三つ目は、海戦ともなれば、その華となる戦術は矢張り火計でしょうが、風向きがどうも
良くない、つまり、今はピサロ軍から見て追い風となる北東の風が吹いており、仮に我等が逆転
を狙って火を放っても、その火はピサロ軍の船団ではなく、我々の船団を焼き尽くしてしまうで
しょう。ですから、ピサロ軍から見て向かい風となる西南の風が吹かねばどうにもならんので
す。」
「・・・景頼の首級を取り、百万本の矢をどこかから調達し、西南の風を吹かせぬ限り、勝てな
い、と言う事ですか・・」
「はい、その条件さえ整えば、私も勇猛果敢にかの大軍と戦い、ピサロやその軍師の田豊と一騎
討ちも辞さないのですが・・」
土佐の夜は更けていった・・・。

お名前: 趙翼   
―続き―
茅ヶ崎の話しを聞いた半兵衛は、深いため息をつきながら、「なるほど、西南の風と
百万本の矢、それに敵の水軍奉行・屋代景頼の失脚ですか・・・確かに、その三つが
揃わぬ限り、お味方が勝利を収めるのは難しい事でしょう。」と嘆息した。
「はい・・・そこが我々の是非とも手中におさめたい物なんです・・」と、茅ヶ崎も
つられて嘆息する。
それっきり、二人は顔を下に向けてしばらく黙りこくっていたが、やがて半兵衛が顔
をあげて、「ならば、まずは『西南の風』をこちらの掌中に納めるのが良策でしょう」
と、明るい表情で茅ヶ崎に語った。
「え!?(こやつ、気が変なのか、それとも頭がおかしいのか?)」と、彼が驚いた顔
をしていると、尚も半兵衛は続けてこういった。
「古人の言葉にも、『世、聖を絶たず、国、賢に乏しからず』と申します。
世を動かす聖賢も決して乏しくないと言うのですから、自由自在に風を吹かせ
たり天候を変えたりする妖術師の類が、一国に一人二人いたとておかしくはあります
まい。茅ヶ崎殿、だれか、この土佐で優れた妖術師の事など、ご存知ありませんか?」

お名前: 趙翼   
―続き―
「は、はぁ・・そ、そうだなぁ、俺はこの土佐に妖術師がいるなんて噂は
聞いたこともないが、そういえば、阿波国との境にある剣山の麓の寒村に、
かつて、南の最果てであらゆる神通力を駆使する巫女にあったとか言っては
皆の笑いものになっている風変わりな老人がいる、という話は聞いた事が
ありますな」
半兵衛、その話を聞くと、「我が意を得たり」とばかりに手をポン、と叩いて
「それです、その老人にお会いして話しをうかがいましょう」と顔に喜びの表情を
浮かべつつ茅ヶ崎をせきたてた。

お名前: 趙翼   
―続き―
それから数日後、半兵衛と茅ヶ崎は、その巫女について詳しい事を聞くべく、
その老人の住居のある、剣山麓の村へと向かった。
二人がその老人の家に着き、挨拶をすると、出迎えた老人は最初、突然の侍の
訪問に戸惑いを隠しきれない様子だったが、彼らが巫女の事について尋ねると、
久しぶりに話しを聞いてくれる者が現れたと、顔に喜びの色を浮かべつつ饒舌に
話しをし始めた。
「・・・その日、わしはいつものように魚を獲ろうとして船を出しましたのじゃ。
所が、その日は折悪しくも天候が悪く、やがて、沖に繰り出していたわしの船も大
しけに有ってしまいましてな。やがて、わしは船から放り出されて海に飲み込まれて
しまって、気がつくと、わしは、見慣れぬ格好をした人々の家で寝ていたのじゃ。
その土地の人々を見ると、全く見慣れぬ格好をし、全く聞きなれぬ言葉を話し、およそ
この本朝の風土とはかけ離れているようであったのですじゃ。
それで、しばらく、その人の家に厄介になって、静養している内に、やがて、そこの
言葉も少しわかるようになったので、そこで、その里の人たちに、ここはどこかと聞
いて見ると、彼らは、その島の事を「ぎにあ」と言っておると言う。さらに話しを
聞くと、そこでは、天地の声を聞き、天候を始めとする森羅万象を自由自在に操る巫女
がおって、その巫女の助言を元に里の政が行われていると言う。わしも最初は、その
巫女の力について疑惑を抱いていたのじゃが、ある日、偶然にも、その巫女と会う機会
があっての。その時に見たのじゃよ。彼女が術を使って天候を変える所を。」

お名前: 趙翼   
―続き―
「その後、わしはその巫女によって、天空を行き来するという、金銀で造られた
ような、見事な輝きを放つ、奇怪な形をした「天鳥船」に乗せてもらい、そのまま
空を飛んで、無事、故郷の村に帰ってこれたのじゃが、その事をいくら話しても、
村の連中は、全然信じようとはせん。何か、わしが海に飲まれた後、この近くの海
岸に打ち上げられていたので、村人が家に運んで、それからしばらくの間、うなされ
ながら眠り続けていただけ、とかいう馬鹿話を信じ込んでわしを笑い者にする始末
じゃ。全く、話しにならんわい」

お名前: 趙翼   
―続き―
この老人の話に只ならぬ物を感じ取った二人は、城に戻るとすぐに地元の漁師達や商人達を
集めて、西国以南の地形・情勢を聞き始めた。老人の話が本当か確かめようとしたのである。
そして、それらの情報を整理していった結果、この日本よりはるか南のルソン島よりさらに
南に「ジャガタラ」という島があり、さらにその島の近くに、老人の言っていた島らしい物
が有る事がわかったのである。
「これは凄い!!あの老人の申していた事は本当でしたか。ならば一度、その「ギニア」なる
島に行って見ましょうか。但し、戦況次第ではありますが・・」と、半兵衛が言うと、
茅ヶ崎が「それなら明日、私が水軍奉行・佐竹親貞殿の元へ行き、現在の戦況と、南方への
出航の許可を頂ける様、取り計らって参りましょう」

かくして、茅ヶ崎と半兵衛の説得により出航の断が下り、一週間後、半兵衛と茅ヶ崎、それに
半兵衛の護衛兼お目付け役の善通寺蓮純と澤田の率いる一行を乗せた船が土佐・室戸の港より
遥か南方に向けて旅立っていった。

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、半兵衛達が室戸の港を出航してから十数日後、一行は南国の島・「ギニア」へと
辿り着いた。
途中で立ち寄ったルソン島にて雇った道案内兼通訳の者の案内で、件の「伝説の巫女」が
住むと言う村に着いた一行は、一先ず、村の長老の邸に行って話しを聞くことにした。
長老は、見慣れない恰好をした半兵衛一行を見て、最初は戸惑っていた様子だったが、
半兵衛が恭しく礼をして、謙虚な態度を見せると、やがて、何かを思い出したような感じ
を見せて、半兵衛達への警戒を解き始めた。
「・・・ほほう、あんたがたは巫女様に会いにきただか。いやな、実は数十年程前にも、
あんたがたと似たような顔形をした一人の漂流者を助けた事があったのじゃが、あんたがたの
言葉やらを聞いていると、まるで昨日の事のように思えてくるわ。その男ときたら、巫女様の
神通力をほんのちょっと垣間見ただけで、えらい驚いた顔をしてのう・・くっくっく」
それを聞いて半兵衛と茅ヶ崎が言う「ほう、そうなのですか・・やはり、あの老人の言った事
は本当だったんだな」
さらに長老は話を続けて、「しかしな、あの男が驚くのも無理は無い。なんせ、その巫女様は、
姿形こそは十四・五歳の美しい娘じゃが、実際には何百歳になるのかわからぬ神仙じゃからのう」

お名前: 趙翼   
―続き―
「その腕力は巨象をも凌駕し、武勇の才は龍や虎をも超え、一度念ずるだけで
瞬時にして天地の端と端を行き来する術を駆使する程のお方なのじゃが、
一ヶ月程前にこの島の奥地にある神山に入られたきり、未だに帰ってこないのじゃ。」
「それはまた、どういう訳で・・?」
「うむ、心配になってわしらがその神山に言ってみると、その山に通じる「入り口」の所に
巨大なヒュドラとその眷属の蛇の大群がひしめいておったのじゃ。それ故、巫女様は未だに
村にお帰りになれず、わしらも迎えに行く事が出来ないと言う訳じゃ。どうしたものかのう・・」
「成る程、そう言う事でしたか。ならば、そのヒュドラとやらを倒して、巫女殿を救出なさる
のが上策でしょう。」
これを聞いた長老を始めとする村人達は皆、(この人、大法螺ぶきなのか?それとも、この島の
暑さで、気が変になっただか・・。)と、一斉に半兵衛の頭を疑い出した。

お名前: 趙翼   
―続き―
半兵衛は村人達が狐につままれたような面持ちで自分を眺めているのを見て、
優雅な微笑を浮かべながら、「ともかく、まずは敵のいる地形を見て、それから、
策を立てましょう。もし宜しければ、その「ヒュドラ」のいる所に案内しては頂けませんか。
敵の陣取っている縄張りを偵察するのです。
「は、はあ、わかりましただ・・・。」
こうして、その翌日、半兵衛は長老の手配した道案内と、茅ヶ崎ら数人の同行をつれて、
その怪物が生息しているという場所へと向かった。
途中、峠を越えて、左右に断崖が立ちふさがる、それこそ人一人と馬一頭がようやく左右に
並べる程度の幅の山道を通って行き、やがて、断崖の斜面が緩やかになって、視界が開けた
場所が目に見えてくると、道案内の者は急にその斜面を登り、また、一行にも登るように言い、
一行が上に上ると、近くの岩場に蛇達に感づかれないように入って隠れさせると、岩場から
視界の開けた場所を指して、「ほら、あそこでうじゃうじゃしている蛇の大群と、その真中で
我が物顔に鎮座ましましているどでかい蛇、あれがそうですだ」と言った。
半兵衛たちが見てみると、そこには、これまで見たこともないような大蛇と、それを取り囲む
ようにうごめく数千数万の蛇の大群が山道を埋め尽くしていた。
「なるほど、大体の所は解りました。それでは、そろそろここらで引き上げましょうか。
策も決まりましたから。」
そして、半兵衛は村に戻ると、村人達と同行の手勢を集めて、「魚の肝からとれる油を大量に
集めて用意して下さい。それから、詳しい制作方法は私自ら教授しますので、硝石と硫黄を
用いて、火薬を作り、それをよく天日に干して完全に水分を抜いた老木で作った箱に詰めて
下さい。これらは蛇焼殺用に使います」
こうして半兵衛は自らの監督の元、それらを製造、準備させ、数日後、彼の望み通りの物量の
火薬と魚油が集まった。

お名前: 趙翼   
―続き―
「かなりの量が集まりましたね。これならばヒュドラを焼殺するだけの火計を
起こす事も出来ましょう。」と、半兵衛が言うと「へえ、これだけありゃヒュドラの一匹
や2匹、焼き殺せましょう。所で半兵衛様、そろそろわしらに策を教えてくれんじゃろうか?」
「そうですね、では、そろそろ説明致しましょうか・・」そして半兵衛は、長老に村人達を
集めさせ、そこで作戦の概要を説いた。
「まず、神山に続く狭い山道に火薬の入った箱を各所に設置し、そこに魚油の半分を巻いておきます。
そして、残りの半分は点火をする人達に山道の上に持っていってもらいます。そして、点火部隊
の人達はそのまま山道の断崖上に待機。続いて、囮部隊が出陣して、ヒュドラを挑発し、狭い山道に
誘い込む様にしむけます。
そして、蛇が山道になだれ込んできたら頃合を見て、火薬の場所に火を放ってもらいます。
そして、上の方の点火部隊も、下の方に火の手が見えたら、残り半分の魚油を蛇達に振りまいて、
火を投げ込んでもらいます。この2段攻撃で、蛇の大群も壊滅するはず。」
「なるほど、それは良策だ!」「しかし、いささか不安が残ります。それは、囮部隊の事ですが、
これは誰でも出来るような仕事ではなく、軍略の才に長けた、機を見るに敏な者か、どのような
危険も顧みない勇者・鈍者でなくてはなりません。ですから、この人選は慎重に行わねばなりません。」
「ならば、それがしが」と茅ヶ崎が名乗りをあげると、「いえ、それはなりません。もし、同行
の貴方に何かあったとしては、これからの大決戦において必要な猛将を失ってしまう事になります。
それに、あなたの主君、元親とのにも会わせる顔がありませんしね」
「では、どうすれば・・」「・・・・・」
と、その時、一人の村人が長老の元にやってきて、こう言った。「長老、今、浜辺の方に、
鳥居雄介となのる人とその一隊がやってきただよ。どないするべか?」
「何?雄介が一体何の用だべか?」と、長老が尋ねると、「はあ、何でも、半兵衛殿がここに
来られる事を知って、それを心配した主君によって、使わされてきたとか言ってますが・・」
それを聞いた半兵衛、満面に喜びの色を称えて、「ああ、これぞ天の配剤です。天は我等に
鈍、もとい勇者を遣わしてくれました。これで、この策は成功しましょう」と叫んだ。

お名前: 趙翼   
―続き―
「長老様、ともかく、雄介殿をこちらにお通しして下さい」「わかりましただ、これ、その
雄介殿をこちらに通せ」
間も無くして、村人に案内されて、雄介達が半兵衛の元にやって来た。
「おお、半兵衛軍師。ご無事でしたか!いや、良かった良かった。」と、言うと半兵衛も、
「あなたの方も息災のようですね。所でどうですか?皆様は恙無くしていらっしゃいますか」
と言う。
「はい、皆、とても元気にしておりますぞ。ああ、そうそう、軍師が使者として四国に赴いた
後,ピサロ軍の侵攻によって尾張国から他国へ亡命されていた今川氏真先生があっしらのいる
鳥羽に身を寄せましてな。いや、流石は軍師の学問のお師匠。作戦やら外交やらで実に見事な
助言を授けて頂いて、こちらも大助かりですわ。実は、半兵衛殿がこの島に渡られた事を聞いた
時、すぐに援軍を送る様に助言したのも今川先生なんですよ。」
「氏真先生が、そう仰られたのですか・・・」
「へえ、そうです。」
そういうと雄介は、半兵衛の援軍として自分がこの島に使わされた一部始終を話し始めた。

お名前: 趙翼   
―続きー
「・・・何っ!!半兵衛は僅かな共を連れて海を渡ったと申すのか・・何ゆえ??」
鳥羽城で四国の使者から報告を受けた正裕は飛び上がらんばかりに驚いた。
しかし、只一人、宮崎家に身を寄せていた客人・今川氏真だけは何でも無いかのように、
「ほほう、やはり・・正裕殿、驚く事はござらん。半兵衛は恐らく、関東の大軍を討ち滅ぼす
為の風を仕入れに、その『ギニア』に赴いたのでおじゃろう。」
「???・・『大軍を討ち滅ぼす風』? それは一体どう言う事ですか?」と、井上秀克が
怪訝な顔をしながら尋ねると、氏真は微笑を浮かべつつ、「井上殿、すまんが、この事は大事
に関わる事ゆえ、まろの口からは申せぬ。じゃが、今に解るでおじゃるよ。・・・しかし、そう言う
事であれば、半兵衛だけではちと、心もとないのう・・」
「と、言いますと・・?」と、正裕が問うと、氏真は言葉を続けて、「うむ、実はあの島には、
御歳何百才にもなる、じゃが外見は十四、五才の年頃にしか見えん美しい仙女がおってのう、
まろも、以前から懇意にして、甲斐の山猿、もとい武田に駿河を追われ、自由の身になってからと
いうもの、お互い神通を使ってしょっちゅう通い合っておったのじゃが、つい一月ほど前から
音沙汰がとぎれてのう、それで調べたら、彼女のいる神山に突如大蛇が顕われて、出るに出られなく
なったそうなのじゃ。
この蛇は人間風情がまともに戦っても勝てぬであろうから、策を以って殺すが一番であろうが、
その時に必要となるであろうある役割は、半兵衛にはちと荷が重過ぎるでおじゃろう。故に、
誰か、その代役を遣わすと言う意味で援軍として送ったがよいじゃろう。そうじゃのう、雄介殿
ならば、この役にピッタリでおじゃろうか、正裕殿、どうでおじゃろうか?雄介殿を半兵衛の
援軍として送っては頂けぬかのう?」と、氏真が言うと、正裕も「勿論でございます。では、
雄介、頼まれてくれるか?」と、雄介に問うた。
「へい!!あっしでよけりゃ喜んで!」と、行って,数日後、一隊を率いて、近くの港から出航し、ギニアへと向かっていった。
「・・・と、まあ、こう言う訳でさあ。そう言う訳で、どんな役割かは知りやせんが、あっしに
どんと任せて下せえ!!」

お名前: 趙翼   
―続き―
さて、その翌日、山奥に幽閉されている巫女を救出する為に半兵衛をはじめ村人の
一団が山に入り、しばらく進んで山奥の湖の所に来ると、近くの木陰に、年のころ
十四、五歳の美しい容姿をした娘が涼んでいた。
娘は半兵衛達の姿を見つけると、満面に喜びを湛えて言った。
「ああ、貴方達は・・ここに来られたという事は、あのヒュドラ達はもう倒されたと
言う事ですね。よかった・・マンセーイ!!」
「そうですだよ。巫女様〜。ここにおられる半兵衛さま達が策をもってヒュドラどもを
倒してくれたんですだよ」
「・・まあ、やはり、そうでしたか。私の危機を救ってくださり、また、村人達の不安
を取り除いて下さいました事、厚くお礼申し上げます」
と、巫女が恭しく頭を下げると、半兵衛、恐縮したように「いえ、大した事ではございません。
どうか、頭をお上げください。それよりも、巫女様にお願いしたい事があって、ここに
参ったのでございますが・・」
「解っております。『西南の風』、でございましょう?」
「な、何故、それを・・」と、半兵衛が驚いていると、その巫女は微笑を顔に浮かべて、
「全ては、天命として定められていたからです。故に私は、貴方様方がこちらに、風を
求めてこられる事も、この神山に入る前から予知をしておりました。そして、貴方様が
策をもって、あの「ヒュドラ」を焼殺し、私を救出してくださる事も・・その為、私は
この山に幽閉されたときも、敢えて自ら蛇を倒す事をせず、この湖の畔で、魚を捕って
それを食しつつ、お待ちしておりましたのです」

お名前: 趙翼   
―続き―
「そうでしたか・・」と、半兵衛が言うと、その巫女は懐から一巻の巻物を取り出して、
「さあ、半兵衛さま、この巻物をお持ちください。この巻物に書いてある通りに半兵衛さま
が呪法を行えば、必ずや風を起こす事ができましょう。」
「おお、巫女様、感謝致しますぞ。これで、剣道の中興も現実のものとする事ができましょう」
と、半兵衛が不株価と頭を下げると、その巫女は少し照れたような表情を浮かべつつ、
「はい、私も正裕様や半兵衛さまが、剣道の中興を成し遂げる事を天にお祈り申し上げ
たく思います」と、返礼を述べた。
その後、半兵衛達と共に山を降りて村に戻った巫女は、その足で雄介がいる所へと向かった。
その時、雄介は、半兵衛達への呪詛をぶつぶつ言いながら暗い表情で寝込んでいたが、
そこに何の前触れもなくやってきた美少女を見ると、それまでの暗い表情はどこへやら、
いきなり、満面に笑みを湛えて日月も恥らうような明るい表情を見せ、さらに、その美少女が
雄介の体の、火傷を負った所をなめ始めると、もう天にも舞い上がらんばかりの心地で、
なんとも艶かしい悶え声を上げ始めた。
更に、驚くべき事に、その巫女が傷の所をなめると、不思議な事にその傷がみるみる
消えていき、しまいには何事もなかったかのようなつるつるの、それこそ玉のような
肌の超健康体に回復したのである。
ともかくも、起風術を手に入れた半兵衛らは、三日後、船を駆って「ギニア」を出航
し、土佐へと戻って行った。

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